このレビューはネタバレを含みます▼
最初の章は江戸時代、人からも妖からも疎んじられる草枕のお話から始まります。己れの出自も嫌われる理由もわからない草枕は、猫又に貰った手鏡を見て自分がのっぺらぼうなことを知ります。あまりの衝撃に泣こうとしても、目もない草枕は涙を流すこともできないのでした。唯一親しく話しかけてくれるろくろっ首の春宵が、祭りの夜に狐の面をくれてから草枕は人と接することができるようになります。第2章からは現代の中途失明者•紺野巽が主役になります。コールセンターで働く巽は、職場で腫れ物扱いされながらも毅然として働いています。真面目で要領の悪い巽は、人に迷惑をかけないように生きるのに精一杯で、お昼はいつも公園のベンチで一人食べてほっとしているのでした。ある日、巽の座っているベンチに何かが飛んできます。知らない男から「そこに落ちている狐の面を拾ってくれないか」と言われて、巽は白杖で面を探し当てて男に手渡します。ここから巽と草枕、二人のお話になります。見えない巽と見られたくない草枕の恋は、草枕の妖怪らしい空気の読めなさと、草枕の時代がかった物言いを冗談だと思い込む辰巳の意外と図太い天然さが楽しいです。ひとりぼっちの二人が出逢い、惹かれあってゆく物語は、明るく剽軽な春宵に加えて妖の元締め•狐の御簾裏もカッコ良いキャラでした。スピンオフ『もういいかい、まだだよ』は春宵と恋仲の人間とのお話です。