にいちゃん
」のレビュー

にいちゃん

はらだ

自分は犯罪者になっていたかもしれないと…

ネタバレ
2024年12月22日
このレビューはネタバレを含みます▼ 軽々しくおすすめはできないが、一歩間違えば自分は犯罪者になっていたかもしれない、と思った事のある人は読んでみてほしい。にいちゃんが小児性愛者なのかどうかはハッキリと描かれてはいない。色んな解釈ができると思うけど、彼は自分の身に起きた事は間違いじゃなかったと確認したかったんじゃないか、「おじさん」のことを理解したかったんじゃないかと私は思う。なぜなら周囲は「何が悪いか」を教えず「それは異常だ」と責める事しかしなかったし、「矯正」にはなんの効果も無かったから。今でもアメリカでは矯正治療が多く行われているらしく、過去には公然と「矯正治療施設」があった(今もあるのかどうかは知らない)。そして「誰でもいいから誰かが自分のように不幸になってほしい」、そう思った事のある人にはすごく刺さる作品じゃないかと思う。踏み外してしまうかそうならずにすむかというのは人生において割と紙一重で、被害者になってしまったゆいは運が悪かったし、加害者になってしまったにいちゃんは絶望的に不運だった。でもゆいは割としたたかで、にいちゃんの気持ちは二の次って感じ。加害した側の心情なんて慮ってやる必要ないんだから。だからこの結末はゆいにとっては幸せそうに見えるが、はたしてにいちゃんのほうは…。最後のやり取りは、にいちゃんがゆいをさりげなく誘導しているようにもとれる。にいちゃんの望みはゆいとは逆なのかもしれない。でも加害者に決定権はないどころか提案する事すら許されないのだ。どうやら文学が好きそうなにいちゃんとゆい、唯ぼんやりとした不安。物語としては秀逸な終わり方だと思うけど、昔よりは、今よりは多少マシにはなっているであろう未来で、ゆいと景とまいがどう生きているのかはとても見てみたい。
いいねしたユーザ3人
レビューをシェアしよう!