ニューヨーク・ニューヨーク
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ニューヨーク・ニューヨーク

羅川真里茂

大都市の片隅の愛の物語

ネタバレ
2025年1月14日
このレビューはネタバレを含みます▼ シナトラ懐かしいな〜一昔前のお洒落な感じのBLかなと思って安易に手を出したことを後悔しました。皆さんも精神的に健康な時にお読み下さいね。所謂ファンタジーと呼ばれるようなBLの正反対に位置する作品だと思います。

舞台は90年代のニューヨーク。警察官である主人公・ケインはゲイタウンで理想そのもののメルと出会う。やがて恋人となった二人は、多くの悲劇と試練に巻き込まれていき…というストーリー。

90年代アメリカ(世界的にもか)の文化的・宗教的背景によるホモフォビアが凄まじく、怒りと悲しみで気分が悪くなるくらいでした。(これでも今は随分ましになったんだな…)他者のアイデンティティを平気で踏み躙り、迫害することを是とする思想や理念とは一体何なんでしょう。本当に悲しく、理解し難い概念です。
マッチョイズムもやばいでしょうしね…中盤くらいまで有害な男らしさ全開なケインに対しても結構うへ〜となりました。
ホモフォビアに加え、エイズについても描かれています。今ほど医療も充実していなかった当時では対症療法くらいしかなかったのか、ただ弱る姿を見ているしかないのは堪えました。

それでも悲しみの底から這い上がり、ようやく結婚というところで更なる悲劇。神よ、どうしてメルばかりこんな目に遭わせるのですか。
2巻はクライムサスペンスが中心になりますが、それもまた歪な親子関係、暴力の連鎖、移民に対する差別が複雑に絡み合っています。唯一の生還者であるメルのトラウマ、夥しい犠牲者を思うと悔しくてたまりません。こんな事件はフィクションだけにして下さい(泣)

壮絶な事件も終結し一安心…とはいかず、PTSDに苦しむメルに寄り添うケインもまた、差別に苦しめられますが、両親と上司の理解を得ているケインに立ち向かう強さがあることが救いでした。
深い悲しみや苦しみと戦いながら人生を共にしたケインとメルの、一本の映画を観たような気分です。
最期なんてまるで『レ・ミゼラブル』で召されるバルジャンのシーンのようでした。
もう一度読み返す気力が湧くかわかりませんが、出会えて良かったと思える一作です。
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