紅椿
」のレビュー

紅椿

三田六十

人の感覚だけで読むと怪我をするBL

ネタバレ
2025年2月15日
このレビューはネタバレを含みます▼ 読んですぐにわたしも思いました…「アカと人間、鬼は一体どちらなんだろうか」って。
赤髪に薄茶の瞳を持って生まれたがゆえ人里離れ孤独に暮らす人間の佐吉と、山に産み捨てられた鬼のアカ。
鬼と知りつつも佐吉は赤子のアカを家に連れて帰るのですが、里のえらそうなじじいが佐吉を「鬼っこ」と蔑んでいるところから、佐吉がアカに何らかのシンパシーを感じたのは間違いなさそう。
そうはいっても言葉も通じなければ生態も異なるので、成長するアカを匿うことが難しくなり佐吉は泣く泣くアカを手放すことに。仕方のない決断だったとは思いますが、手放すなよーと言いたくなる気持ちもわかる。だって佐吉が「自由になれよ」と自己完結に浸っていた一方その頃、アカはガリガリに痩せ細るまで椿の下で佐吉のことを待っていたのだから……通じないはずの「必ず迎えにくる」という言葉を信じて。
離れていた7年の間におそらくアカは他の鬼と接触し、いろんなことを知り、人間との違いを悟ったと思う。そして考える(おそらく)…どうしてあの時佐吉は自分を山に置いていったのか、なぜ泣いていたのか…だから再会しても佐吉を全然拒まなかった。それどころかまた置いていかれまいと血まみれの身体を洗い流したり、佐吉の欲望を見抜き受け入れたりするほど身近に感じていることが見て取れる。
それから冬が近づき腹を空かせた鬼が山を徘徊する頃、アカは佐吉を遠ざけようとしたのに…アカにメロメロな佐吉には伝わらず鬼と遭遇し修羅場と化す——のですが、ここから先はしあわせのターン!
よかった…ほんとうによかった…
差別世代がいなくなりつつがなく人としての天寿をまっとうできたうえ、愛しい鬼との第二の、気の遠くなるほど長い人生が待ち構えていようとは…佐吉びっくり。おまけにアカと言葉も交わせるようになり、アカはアカなりに佐吉を想っていたことがついに判明。佐吉視点だけで見るとこの物語は悲劇だけれど、案外そうでもなかったという大どんでん返しが素晴らしかったです。※先生のあとがきにも補足がしっかりと書いてあります。

あれ?『コッコとのこと』を買おうと思っていたのに…この作品にも出会えてよかったです。
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