日出処の天子(完全版)
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日出処の天子(完全版)

山岸凉子

『歴史ファンタジー』の原点にして頂点

ネタバレ
2025年3月8日
このレビューはネタバレを含みます▼ シーモアのマイベストマンガに即決で選択。が、その後「この作品と同列に評価できる作品が近年発行された作品にはない」と思い知り、1〜2作品は自分の『殿堂入り作品』枠とし、残り枠を毎月変更ししてゆく、と自分の選択基準に折り合いをつけました。それほどこの作品は私にとって神作、別格総本山です。初読時は学生時代、読み難い漢字、耳慣れない人名、、難しいったらありゃしない!でも何度も読み返し、掲載されていた少女漫画月刊誌はボロボロになりました。主人公の『厩戸王子』は当時『聖徳太子』として一般に認知されており(肖像画が採用されていたので)『一万円札(の人)』の隠語としても知られていました。エッ!聖徳太子が主人公?実在したの?それで超能力者?(当時は異能者とは言いませんでした)、、なんかわかんないけど続きが気になって仕方ない、わかるまで読み返してしまう、、。そんな具合で、この物語の魔力は膨大でした。
 無限になるほど読み返し、年月を経て、最近人生の節目を超えて思い至ったのですが、この物語の主題の1つは人間の【業(ゴウ)】ではないかと。人間である限り逃れられない負の感情•煩悩それらがこの物語を動かす原動力になっているような気がします。この物語は日本の飛鳥時代直前の史実が基盤になっています。歴史は【業】のなせる技なのかもしれません。
 怖くても結末がわかっているのに、読み返す度に言葉では説明し難い酩酊感に襲われます。繊細で長い描線で描かれた日本画•仏画のような作画が物語の雰囲気に合致し、唯一無二の世界観を形成しています。
 当時は、まだ少女の娯楽道具の一種とみなされていた少女漫画を世代を超える文芸作品へとその価値観を一変させたこと、漫画に史実を綿密に取り込み『歴史ファンタジー』の先駆けとなり、漫画の学術的価値さえ認知されたこと等、、、この作品が与えた影響は漫画界だけにとどまらず多岐にわたり現在も続いています。(現在、シーモアではこの作品を青年マンガに分類してますが、掲載は少女漫画月刊誌でした。当時の少女漫画雑誌の先駆的編集姿勢はもはや伝説です。)
 実写•舞台•アニメ化は山岸涼子氏の画風が創り出した世界観の再現は不可能とされ、立案されていませんが、能楽では今年(2025年)公開予定です。(個人的には朗読劇を希望していましたが。)時代を超えて守られるべき日本文化史に遺る最高傑作の1つです。
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