大奥
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大奥

よしながふみ

平成を代表する傑作歴史ファンタジー!

ネタバレ
2025年3月22日
このレビューはネタバレを含みます▼ この作品を某月刊女性漫画雑誌で初めて読んだ時の感覚は言葉では表現できません。それは『日出処の天子』(作•山岸涼子)を読んだ時の感覚に少し通じるものがありました。掲載されていた月刊誌の発売日を待ち、完結編を読了した時には歴史の証人になったような感覚がしました。史実を基盤にして人間の【業(ごう)】を描いた傑作中の傑作です。
 この物語の設定はいたって単純かつ緻密です。時は江戸幕府草創期〈男性しか罹患しない疫病が流行り、男性人口が激減した〉この時、人々、特に権力者はどう対応したのか? どう生きたのか? 、、江戸開城迄の約200年間にわたる壮大な人間ドラマです。作者の【業】の描き方は的確かつ容赦無く、理不尽な結末を強いられる人物が数多く登場します。作画には無駄な描線が無く、武士の時代の素朴で質実な雰囲気に合致しています。長台詞が多く、読むのに時間がかかりますが、その世界観にはいると時間の経過を忘れます。読了後の余韻は深く、人間について考えさせられます。
 この作品で特筆すべき事は、江戸時代の人間群像劇でありながら発表当時の社会の動きをも反映している事です。この頃、日本社会では、ジェンダー、家族、夫婦、女性のあり方etcの変化が顕在化し、社会問題化しつつあり、現在迄その動きは続いています。この物語を読むと〝コレって今でもアルよね“と共感したこともしばしばありました。作者の社会や人間に対する観察力の鋭さには感服するしかありません。
 映画、TVドラマ、アニメ化とメディア化も盛んで、個人的には某国営放送のドラマが一番のお気に入りです。作中随一の怪物的権力者を仲間由紀恵さんが快演していました。原作では醜悪極まりなかった容貌の人物を当代を代表する美人女優が演じる、そのキャスティングの妙に唸りました。すぐれた文化的作品はその時代•社会を反映しながら次代へ継承されてゆきます。平成の社会を代表するこの作品も令和へ引き継がれ、何年か後に新たな視点でメディア化され、さらに読者を増やすことでしょう。
 気楽に読める物語ではありません。やりきれない悲しみに胸が苦しくなる事もありますが、何度でも読み返せる物語で読むたびに新たな感慨に浸れる物語です。これぞ名作。読み応えのある物語を探しておられる方、必読の傑作歴史ファンタジーです。
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