春のデジャヴに踊れ
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春のデジャヴに踊れ

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最後に残ったものは

ネタバレ
2025年3月24日
このレビューはネタバレを含みます▼ ストレートな相手を好きになってしまっただけでなくお相手の心の中はすでに自分の、しかも亡き母親に占められていたという身動きの取れなさそうな概要に「これ、一巻で完結できるのか…」と怖気付き、先にSNSでその後を確認してから購入に踏み切るという荒技に出ましたが、結論…気にしすぎでした。完結厨のわたしでも納得できる文句のつけどころのない内容。約200ページでもこんなに素敵できれいに終われるものなのですね。
晃介(21)と淳(29)。出会った頃の2人の間にはたしかに亡き母・花さんの面影がチラついていて、花さんを通してお互いを見ていたのは否定できないところです。それが交流を重ねるうち目の前を覆っていたフィルターはだんだんと薄れ、淳の気持ちが固まっていくその過程が予備歩やターンで構成されたダンスのバリエーションそのもののようで、ただただお見事だなと思いました。
ほかにも社交ダンサー特有のシャッキリとした姿勢や体つき、攻めが受けに覆い被さる迫力の構図に、ちょびちょび出てくるイケメン仕草に…ダンスのイメージ曲(ケリ・ノーブル:Falling)もパーフェクトだし、とにかく盛り沢山なツボの連続に冗談抜きにクラクラしちゃいます。受け、攻めでしっかりエピソードを分けてあるのもわかりやすい。
それに何より、わたくしこんなにほくろを最大活用できているBLを読むのは初めてなんですが…!みなまで言いません、もうさいっこうなのです。
もちろん同性愛についてまわる困難もスルーすることなく描かれているんだけれども、人間、何を選んでも取りこぼすものって必ずあるから…失うことの恐怖や不安を踏み倒してでも結ばれたいと思える晃介のまっすぐな強さと、誤魔化すことなく正面から気持ちを受け取った淳のその先が2人にとっての正解でなくて何が正解なのか。
しっとりと静かに、けれど着実に育まれる関係性からいっ時たりとも目が離せない衝撃のデビュー作(デビュー作インフレに追いつけない)。
あらゆるリスクをふるいにかけ、結局最後に残ったものは…?
混じりけの無い彼らの選択、その清らかな結末を、どうぞその目でお確かめくださいませ。
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