このレビューはネタバレを含みます▼
全米が泣いた…約300ページの豪華絢爛なおとぎ話。
時は戦中。天の巡りを司る四聖獣の補佐的な役割を担う麒麟の坊ちゃんとそのお世話係である燕が、ざっくりいうと自己犠牲の連鎖から抜け出して本当の意味で幸せになるお話。
季節とともに海を渡る燕の乙鳥(つばくら)を手放したくないと考えた麒麟の坊ちゃんは、宝石のようなその身を善意と称しては犠牲にし、つばくらに多大な心配をかけることでなんとか身柄を繋ぎ止めていた。しかしそんな無理が続くわけもなく、坊ちゃんが身を削ってばら撒いたツノやウロコ、金糸のような髪の毛をひとつ残らず取り戻すため、今度はつばくらが自分を犠牲にし始める。違うよつばくら、そうじゃない…わたしの脳内でにわかに鈴○雅之が歌い出す。
悪どい商人は、必死なつばくらの足元を見るかのように渡り鳥の命ともいえる風切り羽まで要求する始末。そんな献身を装った犠牲はやがて坊ちゃんの知るところとなり、坊ちゃんはようやく自分の行いを反省するのですが…折悪く2人は戦争の混乱に巻き込まれ、そこからしばらくは大変な道をたどることとなります。徴兵後、これまた自分を犠牲にして捕虜となった坊ちゃんの状況が思っている3倍はひどかったのに…坊ちゃんを征かせまいとして「もう物理で止めるしかない!」と縄を手にする脳筋なつばくらには笑わせてもらいました。
坊ちゃんが戦地に赴く前の物語中盤、坊ちゃんの髪を手に入れた蛍の精?につばくらは問われます。
「自分のことよりも相手の幸せを願うなんて、君たちはよっぽど長生きで暇なんだな」と。そんなわけはないのですが、まさに2人はその皮肉の通りにすれ違っていたのです。
自分のものにしたいという葛藤を抱きながらつばくらの解放を願う坊ちゃん。
誰にも渡したくないともがきながら愛する坊ちゃんの幸せを願うつばくら。
犠牲で手に入れた幸せなんてうれしくないはずなのに、隙あらば自分は犠牲になろうとする…変なところで似たもの同士なこの2人。
そんな通じ合うどころか交差してしまったおかしな関係を元に戻すには…?
2人の出した答えを全面支持。
麒麟が笑えば世界も笑う。いろいろあったからこその結末なので、最初からそうすればよかったじゃん…というツッコミは御法度でございます。