初恋
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初恋

一樹らい

初恋は実らないなんて誰が言った

ネタバレ
2025年4月21日
このレビューはネタバレを含みます▼ あっさりとした絵柄からは想像もできないほど深みのあるいいお話でした。と同時に、競争社会の弊害を描いている作品だとも。
「一位」の魔力に取り憑かれ賞賛を餌に疾走する元社畜予備軍+中二病気味な遊左(ゆうさ)と、事故死した妹の代わりを強いられる凄まじい幼少期を経てレジリエンス(困難を乗り越える力)つよつよになった一吾が再会し恋人になるまでのちょっと普通ではない青春物語。
あれ?どこかで会ったことがあるような…どこか惹かれつつも、はじめは2人とも反発しあっていた。どうせ1番になれないなら頑張りたくないプライド高めな遊左に、結果よりも過程を重視し努力する地に足のついた一吾。正反対ともいえる価値観の違いで一時は激しく衝突するも、「ごめんなさい」と「ありがとう」を素直に伝えられる2人だから何があっても仲直りができるんだな。
なにしろ遊左の頭が固い。はちゃめちゃな人生を歩んできた一吾の方がいろんなことに寛容。けれどもそれには訳がある。苦い過去も一つ残らず大事に飲み下した一吾とは違い、遊左は一吾との忘れ難い思い出を無理やり無視して封印しているから。
誰しも自分の信じている価値観だったり思い込みを塗り替えるには勇気がいる。慣れ親しんだ環境から出たいと思えるほどのメリットがない以上、なかなか一歩を踏み出せないのもわかる気がする。
そんなドミノばりに立ち並んだ遊左の思い込みをバタバタバタっとぶち抜いて決心させた一吾はすごい。そのための原動力が遊左の嫌う昔の勇者(遊左)だというところがまた泣けるんですよね…遊左も遊左で、まともな自問自答に自己分析、そして現実に向き合い前進できるところがほんとすごい。ただし、自分に言っていることは相手に言っていることと同義。主語が違うだけで同性愛を気持ち悪いと思っていたのは事実だから、一吾に言ったつもりはなくても否定しているも同然だな、とは思いました。
自分を置いて逃げ出した遊左を恨む暇があるなら、何ができるかを考える一吾の爪の垢を煎じて飲みたい…
葛藤を乗り越えた先は遊佐のお母さんの言った通り。
「元気に生きていりゃそれでいい」のだ。
※ラブ要素は『初夜』にて補給すべし。

同時収録『よりみち』もよかったです。
「普通」よりも大事なものはなんなのか、考えさせられます。
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