このレビューはネタバレを含みます▼
デビュー作とのことですが、とてもよかったです。設定的にちらほら気になるところはありましたが、それでもストーリーを大きく邪魔することはなかったので、大丈夫でした。しかししかし黒瀬よ。下心といえど、かなり大きな代償を負ったのに、君は凄いな。高校生で、自分の夢や将来よりも、気になる子のために身を挺して守りにはいり、結果、夢だった甲子園は途絶え、高校も留年。庇った柏木とはその後まったく接点も会うこともないのに、それを自分が勝手にしたことだから、と殴った相手を恨むことも、柏木に恩を着せることもしない。高校生だよ?高校時代なんて、まだまだ未熟で多感で、自分の先が少しでも途絶えたら、落ち込んだり自暴自棄になったりしそうなのに…。それから10年程経って、偶然なのかその柏木と上司と部下という形で再会。柏木のトラウマや背負ってきたものを目の当たりにして、黒瀬は何を思ったのか。立派なオタクとなり、仕事も人間関係もドライな黒瀬にとって、柏木との再会は苦い過去を思い出すものではなく、柏木の無事で元気に過ごしている姿を見られることの安堵感のほうが大きかったんだと思うと、題名の意味がすっと入ってくる。一方の柏木も、明るく元気に振る舞いながらも、過去のトラウマを抱えながら、誰かも分からない、自分を救ってくれた相手への罪悪感を抱えながら、高校球児たちを応援している。その相手が黒瀬だということが徐々に分かり、そして黒瀬の本心が分かったところで、柏木のトラウマは消えはしなくても、少しは浄化されたのかも。黒瀬が柏木を庇って受けた大きな代償を、「下心」の一言でさらっと流す黒瀬がカッコいいなぁ。受けた代償は大きかったけど、代償よりも後悔したくない思いのほうが大きかったんだな…と思うと、黒瀬の想いは結構なものですよね。10年程かけて、お互いに引きずっていたものが解かれて、想い合うことができて、苦い思いはしたけど無駄じゃなかったんだな。苦しいことばかりじゃないんだな、と思えて、ホッとしながら読了しました。そして、柏木がどんどん可愛くなっていく…末永くお幸せに。綺麗にまとまっていて、とても読みやすかったです!デビュー作で凄い!次回作も楽しみにしています!