PET LOVERS
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PET LOVERS

榎田尤利/志水ゆき

寂しさを抱える4つのカップルの恋の物語

ネタバレ
2025年5月21日
このレビューはネタバレを含みます▼ 特定の動物をイメージさせる美形の男女をペットとして派遣する秘密クラブPET LOVERSを舞台とした4つの物語。『犬ほど素敵な商売はない』ボルゾイとして登録された三浦倖生は、轡田という男のところに派遣されます。物静かな轡田は、倖生に男娼ではなく犬となることを要求します。首輪をはめ4本脚で歩き言葉を喋らず飼い主の命令には絶対に服従するというルールの下、最初は高額の報酬のために嫌々従っていた倖生は、次第に犬として無条件に愛されることに喜びを見出すようになります。人を愛することが怖い攻めと愛されたことのない受けとの紆余曲折を経ての純愛は、シリーズトップに相応しいインパクトかあります。『獅子は獲物に手懐けられる』堂々たるライオン蔵王寺真と年上内科医•鶉井千昭のお話。母親の再婚相手の連れ子である義兄からの様々なDVの一環としてシンに抱かれることになった千昭ですが、シンが野生の勘でその不自然さを見抜きます。シリーズ中、群を抜く不憫さゆえに、シンの明るい雄々しさと儚げな千昭の芯の強さとが印象に残ります。『秘書とシュレディンガーの猫』古く大きなお屋敷を舞台にしたミステリ仕立てのお話。屋敷に暮らす6匹の猫の中からシュレディンガーと名付けられた猫を探し当てた者に莫大な遺産を相続させるという遺言状に、故人の孫にあたる、会社の資金繰りに困っている加瀬、貸金業を営む舘、学生の鞠岡が挑みます。舘は屋敷に住み込む美貌の秘書•雨宮を買収しようとしたもののヒントは得られず、揶揄うつもりがそのまま身体を重ねてしまいます。登場しない亡き老人の孤独がじんわりと浮かび上がり、舘、雨宮、それぞれの寂しい過去と共鳴します。『蛇とワルツ』最後に登場するのはPET LOVERSのオーナーで前出の雨宮の後見人である仁摩遙英です。「蛇」として登録されることになった竜巳杏ニを自ら研修することになった仁摩は、杏ニの勝手放題な自由奔放さに振り回されます。得体が知れず何度も脱皮を繰り返す、まさに蛇なキャラでした。いずれも心に寂しさを抱えた男たちが「ペット」をキーに真実の愛を手に入れます。なかなかの不憫受け祭りでもありました。
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