俺たちは恋人に向いていない【単行本版】
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俺たちは恋人に向いていない【単行本版】

弘川コウ

2巻が1巻を超えてくる系

ネタバレ
2025年6月7日
このレビューはネタバレを含みます▼ 完結作者買い。すっごくよかったです。
以下、かなりネタバレしているのでご注意下さい。

執着重めな熊沢のテクニシャンぶりに溺れ相手にしてもらおうと奮闘するノンケの晃一と熊沢の攻防がものすごくキュンとくる、コメディ色の強かった1巻。晃一がそこそこ人気の動画配信者なものだから、すれ違っている間は動画を通じて生存確認するところが切なくも斬新で面白かった。寡黙でネガりやすい熊沢を、甘え上手な晃一が光の可愛さでカバーする…お似合いの2人である、以上。で終われるはずだったのに、2巻は動画配信者ならではの事件とゲイとノンケの間に横たわる認識の溝に着目した、なかなかにシリアスで盛りだくさんな内容でした。

波乱のきっかけは晃一の仕事仲間である動画編集者。なんと彼は熊沢の弟で、それを口止めされた晃一は熊沢に嘘をつかなければならない状況に耐えきれず、せめて動画内では関係性をオープンにしたいと提案するも、熊沢は「なんのメリットもない」と即却下。そこで晃一はハッと気づく…口止め程度の秘密すら抱えきれない自分とは違い、ゲイである熊沢の背負ってきた重圧は一体どれほどのものなのか?当たり前のように甘受している幸せは熊沢の忍耐の上に成り立っていたのではないかと。
それからしばらくの間すれ違いが続き、晃一が「一緒に住んでいるのに寂しいことなんてあるんだ」とぼやくシーンがあるのですが、孤独って意外と1人きりでいる時ではなく、なじめない場所にいたり自分だけが浮いている時に感じたりするものですよね。そういう例えようのない虚しさをご存じの方には刺さる展開が続きまして…
ダメ押しとばかりに2人を揺さぶる当て馬ちゃん(若干ヘラっている)がカットインしますが、彼女のしでかした奇行のおかげで話が一気に前進するし晃一との仲を疑った熊沢のマーキングエチは見られるしで、むしろそこはご馳走様といった感じ。1巻では熊沢の独壇場だった快楽優先のエチが、2巻では心を通わせた愛あるエチに移り変わっているところもまたよかった。とくに、熊沢が晃一のキス顔をガン見するところにいろいろな感情がチラついていてたまらんのですよ。
最後の最後、bonus trackもなんだか意味深で素晴らしかったな。2人の行ったカミングアウトが、似たような境遇の誰かに勇気を与えたのだと示唆しているようで。
ああほんと、終わってほしくないなこの作品…
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