ペリリュー ─楽園のゲルニカ─
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ペリリュー ─楽園のゲルニカ─

武田一義/平塚柾緒(太平洋戦争研究会)

田丸にとっての吉敷と戦争

ネタバレ
2025年6月17日
このレビューはネタバレを含みます▼ 戦争の悲惨さ、残虐さを描きつつも、デフォルメされた絵柄が可愛らしく読み続けられた。 『戦争中のことは何も思い出したくない』という言葉は『戦争は女の顔をしていない』にも書かれていた。 人が人を殺す戦争中、平時の人間性を保ったままでは戦場で生き抜けない。 作中で、田丸は戦場にあってもどこか観察者のような一歩引いた立ち位置にある。 主人公は田丸だが、作者は実際には戦争を体験していない孫であること、『体験していないやつに何が分かる』と言われたこと(これもフィクションかもしれないが)等が影響しているのかもしれない。
11巻に描かれたように、これが誰か一人(作中では作者の祖父である田丸)のインタビューを元に描かれた作品であるなら、語り手の田丸は、孫に語るとき、あたかも自分は殆ど戦闘に参加していないかのように語ったのかもしれないな、と思った。 『自分が人を殺したということを自分の子供に伝えるのは恐ろしい』と感じたことが語り方に出て、それを感じ取った作者が、田丸を観察者の立ち位置に描いたのかもしれない。だから、田丸の半身のような吉敷は田丸の分も戦い、そして帰れない。
吉敷くんが居たから、田丸は戦争から一歩引いた立ち位置のままいられて、孫に戦争を語ることができ、そしてペリリュー島を訪れることができる。
田丸の「戦争で人を殺した罪」は吉敷くんが背負っているから、田丸にとって吉敷くんはいつまでも英雄であり、忘れられない半身なのかなと思った。
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