ひだまりが聴こえる【単行本版】
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ひだまりが聴こえる【単行本版】

文乃ゆき

共生社会を目指して

ネタバレ
2025年6月20日
このレビューはネタバレを含みます▼ 夢なし金なし元気だけはある主人公・佐川太一と、美形クールな聴覚障碍者(後天的要因で難聴)の杉原航平が、ひょんなことからお互いの人生に関わり合い、かけがえのない存在へ変わっていく成長譚。

マジョリティがマジョリティであることに説明は不要なのに、マイノリティは常に存在理由について説明させられる、そんな不均衡な社会のあり方に、希望を見出したくなる作品でした。

平等が公平とは限らない、マジョリティの中で本人の意思を尊重する形で配慮することの難しさ、必要な配慮に必要以上の感謝が求められることなど、現実にある壁や、飲み込んできたであろう言葉に胸が詰まりました。
航平は、美形であるが故に注目を集め、勝手に期待されては落とされるような残酷な経験も多かったのではないでしょうか。
「障碍をもって生きるということは寂しさに慣れる作業だ」とは、太一の上司の元彼女の台詞ですが、諦めと悲しみが込められた一言が重く響きます。そう言わせてしまう社会に抗いたいものですね。

航平の友人であるマヤや、太一の就職先での出会いを通し、健常者の特権性や、無意識にしている差別を、読者自身にも自覚させるような作りが良いと思いました。

ただ、すぐに殴る蹴る頭突きをするなどの太一の暴力性(どんな事情があったとしても正当防衛以外の暴力は×)に辟易してしまい、『春夏秋冬3』で途中下車することにします。誰もが自分らしく健やかに過ごせて、他者への思いやりを持てるゆとりのある社会になりますように。

ところで、本作はBLかヒューマンドラマか論争…男女がいれば本筋に無関係でもラブを発生させられがちな世の常を思えば、どんなに薄くてもボーイズがラブしてるんだからBLなんだよ!と個人的には思います。
しかし、L要素の少なさから取ってつけた感があるように見えてしまうというか、ノンケ同士で友情から欲情、恋愛関係に発展するのは、あり得なくはないけど、簡単に成立するものでもないので、せめて航平はゲイ寄りバイ〜ノンケ寄りバイであった方がより現実的な説得力があったのでは、と思ってしまいました。
とはいえ、人の数だけ性的指向や恋愛観があると思うので、過剰な照れ隠しをせず対話を意識すれば、一気に進展するような気もします。若人たち、ファイト!
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