寄宿舎の黒猫は夜をしらない
」のレビュー

寄宿舎の黒猫は夜をしらない

鯛野ニッケ

作者買いです

ネタバレ
2025年6月21日
このレビューはネタバレを含みます▼ 吸血人類という少し特殊な設定のファンタジーですが、それ以外はほぼ現実の世界と変わらないので、設定の理解に労力を割かずに読み進められます。吸血人類たちの、自分たちがゆっくり絶滅していくのを受け入れているところに悲しくなりましたが、ジーンが諦めずに未来を創造していこうと一歩踏み出すところには感動しました。諦念の中で生きていた吸血人類たちが、希望を持つことを恐れている様子は、私達の現代社会と重なりました。願いを叶えるために行動を起こすことは、いろんな意味でリスクも伴う訳で、それならこのまま死んだように生きることになっても変わらないでいたい・・・。そう思っちゃうの、なんか分かるな~。

ユキの好きなところを「彼のこういうところに魅力を感じる」「そういうところに救われた」等、言葉にしたり、心の中でつぶやいたりしていたジーン。理屈っぽいユキに有効なアプローチだったわけですが、それがジーンの人となりや背景を知るきっかけにもなり、その後の彼の言動に説得力を持たせていました。特に初めてユキを抱くシーンは涙なしには読めません。ここで感情移入できるのは、ニッケ先生が凄いんだと思います。
パベルとアウラのお話も良かったです。彼らは、もう理屈抜きなんですよね~。スポーツマンと芸術家ですからね。吸血される度にパベルに関する記憶を無くしても、会えば必ず好きになるアウラが愛おしすぎる。そんな純粋な思いを向けられたパベルがエンドレスループにハマり込み、破滅へまっしぐらになったのも頷けます。

個人的には性癖にぶっ刺さるとかではなかったのですが、物語自体が非常に良くできている上、メッセージ性も感じて、とても読み応えがあり、読後は満足感でいっぱいでした。学生たちの恋も、先生の恋も、吸血人類と人間の愛の物語はどれも切なく美しかったです。何より「星の鱗粉」っていう設定が素晴らしいです。切なさも倍増しますが、物語を一段と面白くしていると思いました。BLという括りを越えて、多くの人に読んでもらいたい作品です。
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