このレビューはネタバレを含みます▼
トロイメライ…夢、夢想ということで、作品全体が曲のタイトル通り夢の雰囲気をまといつつ、ピアノの静謐な響きのような透明感と静けさが感じられ、余韻が後を引きます。
トロイメライは大人が子供のころを回想するために作られた曲ということですが、作中にも子供のころの回想シーンが出てきます。あたたかく懐かしい思い出だったり、あの時本当は寂しかったんだと気づいたり…この作品を読んでトロイメライの曲を聴くと少しずつ形を変えていくメロディーが、感情の入り混じった音の広がりが、ストーリーと相まって味わい深いです。
作中でのこの曲の使われ方も素敵です。子供の頃眠れぬ夜に母親が弾いてくれた思い出、勇の高杉先生への向き合い方が変わった時、そして終盤のこの曲をきっかけに、という展開はまさしく夢のようです。
勇側から見るとピアノから遠ざかっていたけれど、好きな人にできることをしてあげたいという思いからピアノへの情熱を取り戻すお話になっていて音楽ものとしても期待を裏切らないです。
高杉先生のほうは、今の性格が子供の頃から長い年月をかけて形成された分、ゆっくり時間をかけて、押し込めていた思いに気づいて、認めて、手放し、新しい一歩を踏み出していく様子が丁寧に描かれているのがよいです。
トロイメライ、夢ということころからシューマンとフロイトも入ってると思います。
高杉先生が精神的に病んでいるのは、シューマンが精神を病んでライン川に投身自◯未遂したのを連想させますし、勇がピアノが弾けて高杉先生とかなりの年の差なのはシューマンの妻クララでは。
白昼夢?と性的なものを結び付けているのがフロイトだと思います。BLって片親やダメ親が多いなと思ってましたが、フロイトには同性愛についての言及もあるのですね。カウンセラーと患者間の「転移」も少し出てきますが、最終的にそれも共依存も超えて恋愛してるのがよいです。
上記の様々な要素がうまく絡み合い1つのストーリになっているところが本当にすごいです。
『肩甲骨〜』は読まなくても大丈夫ですが、そちらも読むと同じセリフが別の形で出てくるし、「共犯者」が理解しやすいし、トロイメライ、シューマン、フロイトを感じるところもあります。私は『肩甲骨〜』を後に読みましたがその方が楽しめると思いました。