このレビューはネタバレを含みます▼
ホラーもゾンビも大丈夫ですが、戦争だけは不条理と未練のお話しすぎて好きではないです。読むと怖くなるとか涙が出るとかより鬱っぽくなってしまうんです。
たまたまこの作品の試し読みをしてしまう機会に鉢合わせ、購入しました。勝手に先を想像していい考えができないより、彼らの結末を見届けて、良い記憶として消化したい。私なりに作品鬱へ向き合おうとしました。
橋内和中尉編は掲載の三作品の中で同じ死に向かう話でありながらそれを感じさせない、柔らかな話でした。やっぱり橋内和という人間が、抜群の才覚と人望を持っていながら、いざというときの“生”への執着が特段薄い感じがして。きっと比較として八木中尉が出てくるからだと思いますが、言い渡された瞬間に「遺しておきたくないもの」があるかないかって大きいですね。敢えて、沢山逢えた二人じゃないからこそ橋内にとっての塚本が特別な恋しさを抱くことなく、「間に合った」感じに救われました。
一方で嫌われ者だけど脆い中身を待ち合わせた八木中尉の話はより人間味溢れる構成で、綺麗だけじゃない愛憎が響きました。外部に敵のいなかった橋内ですが、八木はきっと生涯を勘違いされたままで終わるのだろうなという感じがします。それでも男色を蔑まれ、失われて初めて気づかれるような志津摩の一つの命が“八木正蔵”という希望と未来の先にあってよかったです。
後を追う者、残される者、下巻は共に散る者と、共に生きながらえる者、文字では相反しますが、下巻の関係性の方が救いがあるかもしれません。
個人的に鳴子部隊編でのマエの命のあり方と、クレの存在が印象的です。きーやを見送った当時と、桜花に乗り込む際では同じ空に向かう瞬間で、活力ある表情に描き分けがされていて、マエが最期まで“光”の漢であったきーやという太陽に向かっていった感じがしてよかったです。
武人として全うすることにこだわったきーやと冬島、最期だけ少しの我儘を通したマエ、己の信条のもと美学を貫き通すことにしたクレ、歪であれど各々が各々の目指す人生を見つけていたからこそ、飛曹長とソノの生真面目が転じた理不尽な運命が露呈するのですが。
全てが読み終わった時に、美しい海と綺麗な空の話が見えてくるので、上巻のみではなく下巻も読むのがお勧めです。私自身を沢山救っていただきました。ありがとうございました。