青とジェント
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青とジェント

秋平しろ

父の座右の銘

ネタバレ
2025年6月30日
このレビューはネタバレを含みます▼ IT企業の社長と経済状況がピンチの高校生のシンデレラストーリーであることは知っていました。
読んでみたら思った通り実に秋平先生の作品らしい人格者✕可愛い男の子が主人公で、ストーリーもほんわか優しくて時に切なく時に可笑しく、いつも通り文句のつけようもないです。
その上で言いたいのです。この作品で私が一番心を持っていかれたのは佐久間だったと。

そのロボットのような表情の下にどれだけの熱情を秘めていたのか、最初からずっと京一だけを想いながらどれだけの自制力でそれを押し殺し続けていたのか。
なぜ打ち明けなかったのかは分からない。ビジネスパートナーとしてそうするべきではないと判断したのかもしれないし、本当のところは彼にしか分からない。
ただ恋人になる気はない代わりに京一が安穏でいられるよう、経営者として仕事に支障が出ないようサポートし続けていた佐久間。
それでよかったはずなのに、直己が現れてから完璧だったAI男の処理システムが徐々に狂っていく。おそらく永遠に告げるつもりはなかった京一への気持ちを口にしてしまうほど追い詰められていた佐久間の心境を思うとたまらない気持ちになるのです。

直己が父の写真に手を合わせるたびに目にしていた父の座右の銘「罪を憎んで人を憎まず」
この言葉はいつのまにか直己の心にも刻まれていた。
佐久間のしたことが判った後でも「佐久間さんのことは好きですから」と断言する直己。
間違いなく秀平さんの信念を受け継いだ子です。
そして「直己くんのそういうところすごく好きだ」と微笑む京一。
シンデレラは何の魅力も無い子にはなれるものではないのです。
直己は魅力の塊です。本当は佐久間も気付いていたんだろうな。京一を想う気持ちは直己と同じくらい大きい者同士、正しく京一を見ている者同士だからこそ、この2人は本気で惹かれ合っていると解って冷静でいられず、あんな行動に出てしまったんでしょう。
当たり前だけど佐久間はロボットではなく、あんなにも深く人を愛することができる一人の人間です。また恋して欲しい。今度は真っ向勝負して、報われて幸せになって欲しいです。

ちなみに京一と直己のラブシーンは、それまでの2人のイメージを壊すことない軽めの描写でした。それも可愛くていいのだけど、欲を言えばベッドの中では京一のギャップが見たかったなあ(笑)
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