このレビューはネタバレを含みます▼
凄まじい作品でした…使われている言葉もそうだし、売れ筋路線にこだわらず芸術性を追い求めた、純文学のようなBL作品。
セール期間ギリギリまで購入を迷いましたが、マジで買ってよかったです。今後似たような作品に出会える気がしません。
以下、メタファーてんこ盛りで内容を濁しますがまあまあネタバレしていますのでご注意ください。
読んでいる間、ずっと喉元が苦しかったです。
上巻では憬(けい)の抱えるPTSDに息苦しさを覚えましたが、下巻では命がけの反転攻勢を経て愛と自由を謳歌する憬とひと皮むけた燿一(よういち)に、今度は感動して胸が詰まるという二段構えの息苦しさ。謎が徐々に解けていくスカッと感もありながら、読んでいるこちら側のカタルシス感もすごかった。枝葉のように散り散りに、幾重にも張り巡らされた思惑の数々…そのすべてが結末に向かい収束していく圧巻の構成に、とにかく息を呑むばかりです。
絵柄もそれに相応しく、耽美のようであり劇画のようでもある力強さが物語の奥深さに華を添えます。激情に駆られ互いを求め合うシーンはため息が出るほど艶めかしかった…
ビジネスに魂を売り渡した悪魔の計略に苦しんだだけでなく、愛する燿一まで失うところだった憬。凄惨な幼少期を思えば仕方のないことだとはいえ、とりつく島があるために付け入る隙を与えてしまったわけですが、死神を抱き込み一体化を果たした完全体の彼に、たかが欲望に囚われた悪魔ごときが太刀打ちできるはずもなく…
カタをつけ、未来へと漕ぎ出すべく燿一と2人優雅に乗り込んだその船は、言葉を燃料にして進む紙でできているとか、いないとか。