サマー・ボーイ・ブルー
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サマー・ボーイ・ブルー

遠野みやこ

予防線を張りながらも手繰り寄せる恋心

ネタバレ
2025年7月20日
このレビューはネタバレを含みます▼ 初めて体を重ねる、不安と緊張と湿った熱さの大事な大事な場面…親に見つかり突然の別れを経験した苦く重い中学生時代。
好きな気持ちのまま、罪悪感を抱えたミチルと潤の物語。
好きだった絵を描くことも、進学も、潤への想いも、見えないようにそっと閉じ込めて重たい鎖で縛り付け、海の奥底に沈めたように見えた。その宝箱は痛々しくも呼吸をしていて、ブクブクと酸素と後悔を吐き出し浮上を夢見てる。
そんな中、偶然の再会でまた時が動き出す。
会うのを拒めないのは、まだ気持ちがあるから。記憶の中の君と目の前にいる少し大人になった君。どうしたって気持ちは止められないし、薄く射し込んだ光に希望を見てしまった宝箱を騙せない。
性別とか関係なく「生まれて初めて 人を好きになる」ことの尊さと儚い輝きを大切にして欲しいのに、偏見や理解の難しさ、まだ親元から巣立てない多感な時期の影響、自分たちの弱さと歯痒さもきっちり詰め込まれている。

背景も手書きで温かみがあり、短編映画のように何気ない日常をゆったりと背景やセリフに落とし込み、彼らを取り巻く環境や日々の積み重ねが丁寧に伝わってくる。
実家から通うつもりだった志望校の変更やミチルの予防線を張りながら手繰り寄せてしまう恋心、「明日にはまた会えなくなってるかもしんないだろ!」という悟り、台風の日でもドラッグストアに駆け込みむリアルさ、2人とも同じ痛みを抱えながら心も体も一途でいたこと、欲に溺れずお互いの道を切磋琢磨するところ…
全部好き。

琴子と神原さんのこと、琴子を憂う店長の眼差しと変化、潤母の不安定さと剥き出しで暴く弱さ、ミチル母の伸びやか育て方と考え方含めて、2人がどういう日常を過ごし自分たちなりの恋の紡ぎ方を見出していく感じが好き。宝箱はキラキラと輝いて未来地図を手にしたんだと思う。
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