このレビューはネタバレを含みます▼
読み放題にてページを捲る手が止まらず、流れるように最終話を購入しました。読み放題様々です。
親との関係や、ストーカーによるトラウマを抱える人は読むのに注意が必要かもしれません。抑圧の再生産が、いかに人格形成に影響を与えるか、自尊感情を損なわせるか、改めて考えさせられました。
バイセクシュアルの高校生・二宮清正(キヨ)は、廊下ですれ違った宮沢律に一目惚れ。距離を縮めていく二人の間に、律のストーカーである的場、そして母親の存在が暗い影を落としていく。葛藤の末にキヨに打ち明けた律に、キヨもまた過去の苦い経験を語る。互いの痛みに触れながら、心を通わせ、やがて恋人同士に。しかし、的場の執着、母親の異常な依存が律を追い詰めていく…。相手の立場に立ち、その気持ちを想像し、理解しようと努力する。愛は尊重の先にあるということを教えてくれる、救済と再生の物語です。
キヨのエンパシーの高さたるや!信頼していい、心を預けていいと思える誠実さ。頭の回転が早く、言語理解能力も高い。個人的にはこういう人をスパダリと呼びたい。他者に引きずられない強さがあるのも格好良かったです。特に、家族を恥じているであろう律に対し、その生まれ育ちに感謝する場面には心を打たれました。人を救うのは、相手の存在そのものを肯定する力なんだと教えられた気がします。とはいえ、本人の気質に加え、環境――つまり履き心地の良い靴だからこそ歩めた道でもあることを忘れずにいたいと思います。
自尊心と感情を取り戻し、痛みを越え、的場と母親と対峙することを選んだ律もまた格好良かったです。キヨに頼りきるのではなく、キヨからの愛を勇気に変え、自ら行動するその主体性が素晴らしい。ホモフォビアの自覚から、同性を好きになる過程とその心情の変化も自然でした。
ところで、宮沢家も的場家も、父親不在の機能不全家族として描かれているように感じました。前者は無関心、後者は支配者という形の不在。母子が共依存状態のようになってしまう根本的な原因は、父親にあるのでは?という疑問が拭えません。律はキヨに出会えたことで救われたけど的場は…年齢的にまだ軌道修正できるはずなので、彼の未来にも希望があるといいのですが。的場家の事情とその後も読みたかったです。
読むにはそれなりの気合いが必要な作品でしたが、それ以上の救いがありました。若者たちの未来に幸あれ!