このレビューはネタバレを含みます▼
心が疲れた時ふと読み返したくなる、そんな優しさに溢れた素敵な作品です。
特に大きな事件やドラマティックな出来事は起こりませんが、吾妻と久慈の心の葛藤や、生きていくことの意味、周囲の温かい人間模様が、優しく柔らかいタッチで描かれます。
誰の日常でも起こりうる様々な問題の中で、時には生きづらさを感じながらも、前向きに進んでいく二人の姿と、その中で育まれていく大人の恋模様に安心感を覚えるーーそんな作品です。
言葉で表さなくとも感じ取れる愛情が描かれる一方で、相手に気持ちを伝えるためには言葉で表すことも重要ということが描かれている場面もあり、つい言葉を疎かにしがちな自分自身にハッとさせられます。
互いの生活を尊重しながらも自分たちにとって良い関係の在り方を模索していく、そんな大人の恋愛模様が味わえる素晴らしい作品なので、何度も読み返してしまいます。
追記※7巻感想
7巻では、二人の関係性がさらに上のフェーズへ。
その過程で、吾妻が甥の環に、久慈との関係を話す場面があるのですが、それに対する環の返事がとてもいいです。
二人が恋人同士であることに薄々気付いてきた環は、その事実を告げられた時どういう返答をすればいいのか、あらかじめLGBTQの冊子で予習していました。(ちなみに、冊子にあった模範解答は「話してくれてありがとう」だったようです)
咄嗟に出た返事は予習していた言葉とは異なっていましたが、吾妻は環の優しい言葉を聞いて「環に報告して良かった」と微笑みます。
その表情を見て、環が「知らない誰かが決めた用意された言葉じゃなくて(略)ふたりの思いを受けとめればいいんだ」と涙ぐむ場面は、波真田かもめ先生ならではの思いやりと優しさに溢れています。
また、仕事と家族、そして将来の夢。これらの間で、(久慈と再会する以前のように)精神的にいっぱいいっぱいになってしまう吾妻。
しかし、今の吾妻には「闇の向こうの光」のような存在である久慈がいます。そして、苦しく思っていることだけでなく、嬉しさも誰かと共有できる喜び。
7巻では、新たな登場人物がひたむきに夢に向かいながらも、守りたいもののためにその夢から一度遠ざかるエピソードも描かれます。
しかし、必ず春はやって来る。
7巻も安定の素晴らしさでした!