HOUSE
」のレビュー

HOUSE

奥田枠

本当の支配者は、誰か。

ネタバレ
2025年10月18日
このレビューはネタバレを含みます▼ 「Kの支配者」に引き続く奥田枠先生の作品。
令和に昭和が混ざったような「得体の知れなさ」が巧い。明らかに初心者向きではないので注意が必要。だがこの短編、何度噛んでも味がする。
それが最大の注意点かも知れない。

●表紙にひとつの「HOUSE」が浮かび上がっており、すでに読者は”世界”に踏み込み始めている。
照明に切り取られた「白磁」の肌。その”純潔”を覆う「漆黒」の闇。そして、職人のような丁寧さに抗いようの無い意志を潜ませる欲望の「紅」。
目隠しされた表情は窺い知れないが、左目辺りに残る涙の跡は悦びの証か。

●龍彦と龍蔵は異母兄弟ではないかと思っている。それも龍斗を含めた三兄弟。
圧倒的な支配者であった父親の存在に対し、意図的なほど描かれない実母。母の不在は、父の支配をより純化する。
母の代わりに描かれるのは父の支配下にある使用人たちだけ。驚いたことに使用人たちは、一様に”正当に支配されたがっている”ように見える。可笑しな家だ。

●これは本物だと感じた場面がある。父の死後、この家の支配者となった兄の本性に気づく弟の龍蔵。龍蔵が鼻水や涙の混じる龍彦の「鼻血」を舌で絡めとる。
「鼻血」は少年時代に兄弟が覚醒した象徴。
龍彦の血が龍蔵の唾液に混ざり合い溶けていく。血は契約の証。彼らは”完璧”な兄弟となり、主従となったのだと。これを境に”家”が、痛みと快楽によって再構築されていく。

●龍蔵の表情が大変良い。一方的な強権を振るった父とは異なるタイプの支配者。キスをするときに目を開けて、龍彦の反応を見ている。口元に湛える笑みを本能的に使い分けているのは、やはり生まれながらに「支配者」の風格なのだろう。そんな龍蔵が一瞬だけ支配者から素の”弟”に戻る瞬間がある。「もうどこにも行かないでね」と言われた直後の「…一生躾けてやる」。自分の罪を認識した故の覚悟の言葉。この表情、是非刮目していただきたい。

●そして、ラストで震え上がってしまった。
『この家(私)には支配者が必要だから』
恐ろしいのは、これが龍彦と龍蔵どちらの言葉か分からないところなのだ。「Kの支配者」に続く奥田枠ismの系譜。

最後の2ページ。
本当の支配者は、誰か。

修正は白抜き。R18出しましょう是非。
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