雨だれの頃
」のレビュー

雨だれの頃

桃子すいか

エモいなんてもんじゃない

ネタバレ
2025年10月27日
このレビューはネタバレを含みます▼ 作家買い2冊目です。
うわあ…これもっっのすごくよかった!
前作(18.44-)も素晴らしかったけど、こちらの方がもっと好きかも。

雨が降っている。一枚の写真。
何とも物憂げなモノローグから一気に物語に引き込まれます。

そして読者は「あのころの僕ら」の世界へ。こちらも雨。
校内に聖堂、彼らが着ている制服からしてもミッション系のお金持ち学校なのかなと推測。と思ったら優が帰宅した家を見てちょっと意外に。それは実に自然な流れで背景が明かされることで納得。両親と死別し「いかした家」も無くなってしまったが、木のぬくもり感じる温かな家と、おじいちゃんお姉ちゃん家族に囲まれ幸せに暮らす優。
反対に両親は健在で裕福だけど、広い素敵な家で一人ぼっちでご飯を食べ、両親からのプレッシャーで手枷をはめられている状態の美市。
幼馴染の2人は常にニコイチで過ごす。でもそんな関係も優の外部受験で終わってしまう…?

先生の仰る通り「大人でも子供でもなく、繊細で、旺盛で、痛々しい思春期」を閉じ込めたお話でした。
ショパンの「雨だれ」を聞きながら恋に落ちた優。中学生らしい戸惑いと、でも確実にドキドキしているあの表情の描き方素晴らしいです!でもさ美市はもっとずっと前から優を好きだよね。
「かけおち」(意味分かってるのか?笑)という名の大冒険が出来るのも、怖いもの知らずの中学生がなせる業。それでも北海道とは予想をはるかに超えていた。この行動力、無鉄砲さ、もう私にはありません(苦笑)
冒頭のモノローグ通りです。確かにこの時の2人は恋をしていた。こんな最果ての地で、眩しいくらいまっすぐな2人に私は泣かされました。

いつしか止んだ雨。手には一枚の写真。
再びのモノローグに胸がきゅっとなる。
その願いを確かめたい人、今は隣にいないの?(泣)
卒業式の日「10年後にまたくれよ」と言ったキスは?エンゲージキーホルダーは?
スーパーすぐる号は…降りてしまったの?
めちゃくちゃ切ないけど、それがノスタルジーをより強く感じさせる。辛い。でも秀作。どっちも本心。
せめてプロローグとエピローグの「僕」が今幸せでいますように。あの頃「僕」の隣に確かにいたもう一人の君も。
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