目を閉じて夢を見る
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目を閉じて夢を見る

つくも号

作者買いです

ネタバレ
2025年10月31日
このレビューはネタバレを含みます▼ 主人公の晃人君は中学生。学校では酷いいじめにあっており、教師は我関せず。母子家庭で、母親はネグレクト。男を連れ込んでは息子に千円渡して帰ってくるなと言う。食事も寝床もなく困り果てた晃人君は、成り行きで売りを始めて、今日も僅かなお金を稼いでいる。目をつぶって何も感じないようにしていれば、なんとか今をやり過ごせる。大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせる。自ら命を絶つエネルギーすら無い、闇落ちしていないのが奇跡にも感じられる彼の現実。

いつもは厳しすぎる修正に不満タラタラになっている私も、今回はそれどころではない感じで全く気にならなかったです。ヤッてる描写は沢山あるけれど、全然エロくないのは、晃人君が人形みたいだからでしょう。でも、康介と出会って人の温かさに触れた晃人君は、もう人形でいられなくなってしまった。康介にお礼がしたくて金を稼ぎに売りをしに行った晃人君は大勢にまわされます。いつもの「大丈夫」という心の声が何度も繰り返される中、遂にそれが「助けて」に変わった瞬間、ひたすら暗いだけだった彼の人生に一筋の光を見たようでした。

まわされた後気を失った晃人君は、康介に発見され帰宅。風呂場で身体を洗ってもらうのですが、このシーンがめちゃくちゃ良かった!「お礼なんて、笑ってありがとうと言ってくれるだけで良い」というようなことを言われて、青天の霹靂みたいな表情をした晃人君が、次の瞬間フイッと顔を背け、大粒の涙をこぼし、そしてうつむき加減で笑う。この一コマずつの表情の変化が絶妙で、晃人君の心情が痛い程伝わってきて、もう私は泣くしかありませんでした。

ここから一時的に事態は悪化したかのように見えましたが、長い目で見たら晃人君にとってベターな展開になったなと思いました。最後の晃人君の笑顔がそれを物語っており、潰されそうなほど重い話だった割に、読後感は悪くありませんでした。希望も何も無いようなラストじゃなくて本当に良かったです。4話という短さの中に、これだけの内容を詰め込んで、作品として完成させるつくも号先生はやっぱりスゴイ!
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