おねがいヒーロー涙をみせて【電子限定描き下ろし付き】
早寝電灯
このレビューはネタバレを含みます▼
発売直後に読んで、ストーリーを忘れた頃にまた読もうと思っていましたが、新刊発売に伴って再読しました。(年上攻め大好きなので新刊も楽しみにしています!!)●早寝先生のお話には無二の温度感があります。安心し、信頼し、尊重し合う関係がもつ温かさ。どこか現実世界の問題に繋がる窓を有する物語。先生の眼差しをずっと見ていたいと、再読を経て改めて思いました。●さて、タイトルの味わいよ…。ユキがきっかけでピアノ→柔道に転向し、再びピアノに戻ったシノ。この変遷が、二人の関係やヒーロー像の変化を示唆しているように思えました。いじめっ子を成敗したユキから始まるわけだけど、そのユキは気持ちいっぱいに泣いたり怒ったりするシノにずっと慰められてきたし、シノは大きくなってもその性向が変わらない。「涙」が弱さの象徴としてまったく使われてない。だからこそのタイトルなのかなと。苦しみや葛藤をはらみ、二人が別離する可能性があった過去を、最後にピアノがやさしく掬って、タイトルを回収する、という流れが絶妙です。ヒーローという偶像を共有しあい、溶かし、また二人で分かち合うという愛。うぅ、涙が…。●ユキが植物好きというのも物語に通底したユニークさを感じます。紐の細道という発想もめっちゃ面白いし、ユキが植物の勉強を目指したおかげで二人は同じ大学に行けたわけだし。そして何より幼い頃ユキがシノを救った方法も植物なんだよね。ここに早寝先生の植物というモチーフへのこだわりみたいなのを感じるんです。私も植物好きなのでこの使い方はうれしかったです。●私は再会ものが好きなので別離も再会を前提とすれば当然好きなのですが、この話は本当に二人離れなくて良かったねと思いました。関係を醸成するという微妙な変遷の描写に挑戦された早寝先生にあっぱれとお伝えしたいです。