独自の線から目を離せない。
私好みの絵ではないのに引き付けるものがある。
ストーリーが淡々としているようで、内側に草壁と佐条の心のやり取りが滲む。目付きもきついように見えるし、肩の肉付きが絵のための形状に見えて、いびつな感じがするのに、二人が居る場面は思春期の踏み込み過ぎない距離と、物分かり良すぎない正直さとが有って、他に類似の絵を思い出せないくらいユニークな流れと空間が静かに話を形成。学校での二人はものすごく自然体で付き合っていて、背徳感が無い。教師との三角関係もひとくせもふたくせもある。
だが、その独特な絵が、64頁など何を描こうとしたのか分からなかったという、残念な点にも繋がる。
少女漫画で時々横顔のパーツがアンバランスだったり、他で使用したコマの使い回しが仕上がりを汚したり、絵の表現に丁寧さが惜しいことがある。
しかし、このBL作家、中村先生は、そういう見にくさとは対照的で、味を出してる線が普遍性を落としている為に「難解」さを呼び込んでしまう。
独創性で読者を選んでいるかの作風なので、コマの中に判りやすさだけは配慮して欲しい。パッと見て何人中何人が判るか、という比率は、客観的目線の確保でお願いしたい。
性的描写で話の大半が占められているBLが結構あって、それはそれである種の目的を果たしているかもしれないが、そればかりだと確実にこのジャンルのクオリティは上げられない。
本作は、キスまでで二冊目も終わった。異性間ストーリーの少女漫画でいうところのレベルで、ちゃんと二人の、相手のことを好きだという感情表現を、絵とストーリーとで読ませている。
この辺りで実力をもっと数多くの作品に出せれば、先生の個性で、他のBLには行けない境地をたっぶり魅せてくれることと思う。
あと一冊、春編を読む予定だが、その他大勢のBLになってしまってないことを祈るのみ。