◼︎いかにもネット広告で取り上げられそうな〈衝撃的なシーン〉をぶちあげておき、そこに所謂〈サヴァン的天才肌〉の主人公を配して物語をスウィングさせていく…昨今においては非常にありふれた初速の稼ぎ方をする作品である。◼︎謎を残し、あるいは深めて事件が進行していくオーソドックスな展開はよい。しかし、主人公の浮世離れした行動はあまりにも非現実的過ぎて「刑事」「捜査」という配役から著しくリアリティを損なわせている。オープンスペースでの捜査情報が入ってパソコンを使用しての捜査会議はどう理屈を捏ねてもありえないし、主人公の逸脱行為に対する周囲の認識や反応も実に機械的だ。こうしたあまりにも突飛で不合理な「逸脱」は、しかし異常で狂気的な事件を究明するための必然的な行動や演出とはとても思えず、ただ作者側の無理解、無頓着による都合と、天才に追従するしかない凡人という古典的、累計的に過ぎる配役の結果でしかない。そしてそれを成り立たせるには、主人公はあまりにも魅力と説得力に欠けている。とってつけたようなシングルマザー設定も、読者の共感を呼ぶにはとても至らず、これも実に記号的な個性付けでしかない。◼︎総じて、虚妄と論理、狂気と理性との対立構図を成すには主人公側があまりにも〈あっち側〉(※悪という意味ではない)過ぎて没入感はもとより、作劇上でもチグハグな印象を受ける。カタルシスがない。◼︎スッキリした絵柄は好評価。先に類型的であると批判的には述べたが、余計なものを削ぎ落とし情報量が良く抑制された絵柄は、だからこそ〈衝撃的なシーン〉での演出効果は素晴らしく、なるほどあえて火中の栗を拾うというか、それを恐れないだけの力量があると感じた。構図や演出含めて実に読み易い。◼︎もう少し主人公側の掘り下げ──ただページ数を稼ぐのではなく、説得力というか読者を納得させるに足るリアリティの追加さえすれば、より「敵側」との対比も浮かび上がり、カタルシスも生まれた思うのでそこが非常に惜しいと感じた。