口が達者なタイプは意思疎通巧み、そこが爽快だったりするのだろう。
これは違う。驚きのスローモーさで連載中から耳目を集めた。少女漫画なのに主人公が台詞なしでストーリー展開する斬新さ。実験的、というか、チャレンジング!確か賞レース上位だったかと。
主人公すいれんは、なかなか口に出せない。こと、好きな人に、だけでなく、男子全般に。
彼川澄くんも軽口叩けない空手一筋硬派。好きなコにだけでなく、女子全般との接し方がわからないタイプ。少女漫画のキュン台詞と無縁。
当然、この組合わせは端から見ると周りがサポートしなくては、みたいな感じがするのだが、実際は、祭りといい文化祭といい、二人は各々一歩ずつ寄り添っていく。この過程がたまらない。
むずキュンのパイオニアといった趣。
連載の途中で、新しい漫画だとの外部評価が高まった為に、ストーリーが纏まる機会を逸してもつれ込んだ感が、折角の二人の関係の育み方を屈折してしまったように見える。
柴石すいれんの可憐さも絵には出ているが、私は寧ろ、ずっと男子の目を何とかかわし、面倒ごとに巻き込まれないよう、つまり、積極的に男子とも、更に一部を除き女子とも、深い付き合いを避けてきたこの主人公が、外に飛び出す行動力を楽しんだ。好きなひとが出来て、出来そうもなかったことを勇気をもって進む小さな一歩一歩。見た目で人目を引くのは、一見良さそうでも実はそれなり苦労のあることを描写するのも新しいところがあった。
川澄くんのメガネがキュート過ぎて、この作品は、連載化前に他の線もあったらしいが、その造形に落ち着いてホントよかったと思う。口の重い彼の一言一言はとてもインパクトが出る。そこに、川澄くんのかわいいメガネが、良い加減で作用する。
祭りで、すいれんの彼氏になりたい、と思ったところ、押し入れに隠されたお面が慌てた為に見えちゃってるところ、ベタな展開なのに、じれったい二人だからこそ、これからどうやって、という興味を引かせるところとなって、よかったと思う。
硬派な川澄くんの、空手の道を極めたい気持ちもいい筋運びと思ったのに、先輩がキャラ変した辺りで、少し迷いを感じた。親・兄弟の扱いの方も、とくにお兄さんには期待もあったのに、前半のゆっくりな展開の面白さが止まったのは、空手の位置付けと家族の関係のストーリーが、前半の二人の雰囲気を生かせなかった様に思え唯一残念。