設定だけを捉えてしまっていた。実は視点を変える面白さは、江戸時代の仕組みや人々の常識をもひっくり返す画期的な設定でもあったのだ。男女チェンジだけで済まなかった。先入観は実はあらゆる性別観や職業観、歴史観にも繋がっていたことがこの作品で思い知らされる。まさに、歴史のタラレバを壮大に組み替えて見せているよしなが先生の恐るべき創作力。一見単純な発想に見えて、正邪善悪弱者強者の立ち位置も入れ替わって、たとえば誰もがしている歴史上の出来事の賢帝愚帝の判断さえ揺らぐ、別の視点がそこに。これはベルばらのマリーアントワネットが恋を知らぬ年若き内に政略結婚で嫁いだ先で迷い傷つきそれでも女性の幸せも探したことをどう見るか、みたいな視座にも似て、また、一般に悪政を敷いたと見做される人物がご城下では民にとって名君だったとか、そんなことを思い出させる話。
徳川歴代将軍の治世を思い起こせば目から鱗的。
男と女、妍を競い歓心を買おうとし、或いは見た目だけでお相手にと心ならずも大奥に参らせられ。いずれの性もその境遇にあっては行動は動物界と同じ、固定観念を開放してくれる。軽々とあらゆる処の転換を促してくる。嘘を本当のように見せる腕光る。
冒頭は吉宗、その後遡って3代家光のターンになってほぼ時系列にこのフィクションを読んで、こんなに面白かったんだ、と、それこそ作品への色眼鏡で曇っていた自分が恥ずかしい。
今日、序盤に登場の史跡巡りに行ってみた。HPに記載無し、お堂の方は「大奥」に登場することご存じなかった。だが徳川関連の書籍写しを頂き丁度大奥エピと同時期、ご隠居されたご正室や側室?が登場して当然に女性で描かれているので、この「大奥」の虚構性を強く感じて余計に面白味が増した(「徳川の夫人たち」上下2巻)。
実は前日に別作者の「大江戸国芳よしづくし」を読了、そのときに歌舞伎役者が登場したものだから、内容は異なるものの読み比べのようだった。
着物の柄がよしなが先生にかかるとなまめかしくドキリ。
名作の声に背を押され読み始めたが途中厳しい画面があるらしく、覚悟を決めて臨む。未読部分評価保留。毎日無料連載の中の有料部分に入って19巻にて読了。徳川の世を彩る大奥の終焉はやはり感極まる。前髪の話、束の間の安らぎだが政権交代の厳しさも思う。文字量も圧倒的な上に吹き出しの余白大き過ぎ、絵を殺しているように感じた。