チキンハートセレナーデ【電子限定描き下ろし付き】
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チキンハートセレナーデ【電子限定描き下ろし付き】

大島かもめ

つり橋を渡り切ってきた

ネタバレ
2020年11月20日
このレビューはネタバレを含みます▼ どこか幻をまことしやかに語る、そんな感じのBLが多いと思うが、本作は、漂う非現実感と此の社会との接続に揺れる足許の修羅場を渡り、遂に通過した話のように思えてくる。

私の父は生前何回か男性にかなり気に入られ何度も恐いところに引っ張り込まれそうになり、恐ろしい目に遭いそうになった話をした。そういう人達に本気になられても、父は男性は無理。高校時代からくぐってきた、というその類の話は、稀有な体験談として強烈で忘れられない。そういう人しか行かない店に騙されて案内されたときは恐怖だったと。ドアを開けて混雑した店内の光景を見せられ、震えて歩けなくなるかと思ったらしい。母は知らない。
私の同級生にもまた、男から何故か好かれちゃう、と言っていた子が居て、渋谷が徒歩圈なのに、自分の地元なのに、道で急に腕を引っ張られるから危険な場所だと言っていた。因みに彼も同性にそういう気にはなれないと言っていた。

男女でも出会いの偶然か奇跡によって恋愛になるが、同性で出会うというのは、もっともっと物凄く稀なのかと。そんな出会い方の限られた社会で、互いに関係の永続を実現するのは、実は相当果てしなく困難かと。

チキンハート、そうだけれど、そうじゃない。でも、そうだと思える。
語彙選択とストーリーの結ばれ方、大島先生の感性に触れた思い。
妙にコンサート前の喫茶店シーンとその直後の成り行きが印象に残り、きっと、このBLの舵捌きの見せ所なのでは、と考えたい。「吸わない方で良かった」からの展開は、作家性というか他の多くの作家に見られない味がある。

運転手云々とハヤトが物真似する胡散臭い顔のシーンは、もっと作品の中に馴染める顔にして欲しかった。

(「仕立て屋と坊っちゃん」は2018年12月に既読です。その4年前位に発行のようです。行間ならぬコマ間の判じ物のような愛情描写がいいと感じてました。チキンハート~のほうはもっと分かりやすく手札切って来て、第三者の意見を取り入れたのかもですが、絵に任せる力は後退した気がします。チキン~の初読みは2019/9-10月(記録用)ー12/6追記)
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