ハレとモノノケ
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ハレとモノノケ

民俗学に基づく圧倒的世界観

ネタバレ
2020年11月21日
このレビューはネタバレを含みます▼ 日本の山には、しばしば不思議な出来事や現象が語り伝えられています。巻末の参考文献『妖怪談義』は、妖怪を生み出す背景となった、かつての日本に暮らす人々の自然に対する畏怖や死生観が書かれている本です。人々は山から水や食料、燃料、時には日々の暮らしを彩る花々など様々な生活の糧を手に入れ、同時にそこに多種多様な神を見出してきました。山はとても身近な異界だったように思われます。そしてそれは、様々な伝統や習慣を生み出し受け継がれてきました。そんな日本の山にまつわる独特の世界観を、とても丁寧に描いているのがこの作品です。四季折々の草花の細密な描写、季節ごとの「ハレ」としての伝統行事や、異界である山に引き込まれてしまう人々、ひっそりと寄り添う異形の者、古い家屋の縁側、欄間、蚊帳など、物語の背景に圧倒的な力強さがあります。あまりにもそちらの描写が素晴らしいので(個人的に好きなので) しばしば主人公二人の会話が、どれがどちらのセリフなのか、相手が答えたのか、セリフの続きなのか発言者が特定出来なくて、かなり焦りました。短い言葉を詩のようにぽつんぽつんと重ねてゆくのも、この世界観の演出の一つかと思います。山に魅入られてしまった両親を持つ一人で暮らす高校生の八潮の寂しさと、400年もの孤独を抱えたトキ。トキは、〆縄の張り巡らされた宿木の宿る木に幽閉されていたのでしょうか?そのきっかけや、解放されたエピソードなど、続編を切望します。
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