薔薇王の葬列
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薔薇王の葬列

菅野文

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ネタバレ
2020年11月30日
このレビューはネタバレを含みます▼ 見事なラスト、これ以外に考えられないというくらい完璧な幕引きでした。
決戦の日の前の晩、ケイツビーの温もりに包まれながら見た夢は、今まで彼を愛した人たちから、1本ずつ白い薔薇を受け取るという穏やかで安らかなものでした。物語の中で荊はその人を縛る呪縛、白薔薇は愛の象徴として使われていました。リチャードはこの日までに王冠以外の全てを失いましたが、だからこそ他の誰でもない自分自身がこれを望んでいるということに気付いて、最期まで自分の願いを生き切れたのだと思います。リチャードの前にもう荊は描かれず、最期のページには白薔薇に埋もれるように安らかに眠る姿がありました。自分を愛せなければ、他の誰をも愛せない。誰からの愛も受け取れない。愛に飢えた人生でしたが、やり切ったからこそ「俺を愛している」と気付くことができ、愛に溢れた人生として幕を閉じれたのだと思います。ケイツビーに懇願されても願いを聞いてやれなかったリチャードですが、決戦の後、ケイツビーに抱えられて朦朧とする意識の中で「願いを叶えてやらなくては」と思っているんですよね。私はこれを読んで、リチャードが自分自身にかけていた呪いを解くことができ、遂に魂の自由を得たのだと確信しました。呪いというのは自分にしかかけられないものだから、解くことができるのも自分だけ。たとえセシリーが今までを詫びて許しを請うたとしても解けません。自分を苦しめる選択ばかり繰り返してきたリチャードですが、自分を愛しているということに気付いた後は、自分を幸せにする選択ができるようになっていると思います。致命傷となりそうな傷を頭部に負っているので、恐らくケイツビーの腕の中で息を引き取ったのではと推測されますが、次に目覚める(生まれる)時には、愛に溢れた状態から始まるのではないでしょうか。
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