このレビューはネタバレを含みます▼
戦前の華やかな銀座で生まれ育った老舗呉服問屋の御曹司・鷹彦と、その下請工場の息子で幼馴染の葵とのお話。夜の銀座を始めとする美しいカットが効果的に配されていて、まるで良質な映画を観ているような気持ちになりました。放蕩息子の鷹彦は、遊び過ぎで勘当されてもなお、態度を変えない、なかなかのクズっぷりなのですが、育ちの良さと持って生まれた華やかなオーラで周囲の人達に愛されています。真面目な葵は子供の頃から鷹彦に引っ張り回されていましたが、大人になると、女に愛想を尽かされた鷹彦が葵の家に転がり込み、つまらないことで喧嘩をしては、葵が怒って鷹彦を追い出し、ほとぼりが冷めると、また鷹彦が帰って来るという繰り返し。そんな日常が、戦争により一変します。鷹彦は出征し、銀座の街も人の心もすっかり変わってしまいます。終戦から3年経っても帰らない鷹彦を、待って待って待ち続けた葵の前に突然、以前と変わらぬヘラヘラした態度で現れた鷹彦を、葵が思い切りブッ飛ばすところから、物語と二人の新しい日常が始まります。真面目で内向的な葵が、鷹彦にだけは怒ったり泣いたり丸ごとぶつかってゆく姿が、とても素直で可愛いです。終戦直後の混乱と喪失感の中、お互いを希望の光として踏み出してゆく二人が、とても力強く温かく癒されました。惜しむらくは、カラーページを全てカラーでみたかったです。