乙嫁語り
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乙嫁語り

森薫

19世紀中央アジアに生きているかのような

2021年3月16日
新刊でたのでレビューします。日本漫画の芸術の粋がここにあると言って過言ではないこの作品。森薫先生は空白恐怖症ではないかと思ってしまうくらいビッシリ描き込まれた絵(しかもアシさんいないらしい。。)YouTube でペン入れ風景拝見したらもう何がどうなってるのか、極細ペン先から魔法のように紙に浮かび上がってくるアミル(主人公のひとりの女性)と装身具。森薫先生の右手は日本の宝です、ほんと。
19世紀に不凍港目指してロシアが南下してきた中央アジア、現在のトルキスタンやウズベキスタン辺りが舞台。作中クリミア戦争について記述があるので1856年から数年後くらいでしょうか。手違いにより半遊牧民部族の8歳年上のアミルが定住部族の家にお嫁にくるお話から始まります。この作品にはオムニバス的に同じ世界、時代を生きるたくさんの素敵なお嫁さんが出てきて、みな芯があって強く賢く毎日を暮らしています。地理学、民俗学に興味を持ち、旅をしながら様々な出会いと風習を記録していく物語の語り手イギリス人スミスさんが将来書くはずの民俗学書、旅行風土記を読んでいるような気分にさせられます。これ程細かくパンや絨毯や装身具の模様を描き込み続けているマンガを私は知りません。中央アジアでロシア南下により騒乱が起こりうる危ういバランスを保っていたあの時代に、彼ら彼女らそしてスミスの目を通して見守る私がほんとうに生きているかように感じられる唯一無二の特別な作品です。ぜひ読んでください。
追記: いちおう書いておきますが、8歳年上のお嫁さん、たくさんのお嫁さんたちのお話といっても直接的な描写はほぼ皆無ですので、私のようなショタ苦手な方でも全く問題ないですよ。家族全員で読めます。(あとは読者のご想像にお任せして、、という作者さんの意図も少し感じます)
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