ワンダーフォーゲル【SS付き電子限定版】
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ワンダーフォーゲル【SS付き電子限定版】

草間さかえ

つらいだろうけれど、応援したい

ネタバレ
2021年7月3日
このレビューはネタバレを含みます▼ 【みえない友達】の読み始めは、こーちゃんとゆうとが『毎日野球や虫取りして法面から落ちたり』する場面や『男の遊びと初恋感がごちゃごちゃ』に対して「うんうん、小学校低学年の頃ってそうだよね!」とうなずきながら楽しんでいた、ら……ゆうちゃんのことが事件になっていない、の辺りから「もしかして…」とイヤな予感が。
(刑事)事件として扱われていないってことは、そちら側が「善」で逆側が「悪」だということだろうし、つまりは悪と認定される「何か」が現に起きたということなんだろう…いやだ…知りたくない…。
そして、ゆうちゃんを連れていったのが誰でどんな職業か明らかになったことで、予感が確信に。『半年間にあったことは全て… 』のくだりは辛くて途中でいったん本を閉じ、もとい、スマホを伏せました。
何度もフラッシュバックする過去の辛い記憶がいかに人間にダメージを与えるか。様々な文献で読んだり、そうした記憶を「消去」する施術について耳にした人もいるでしょう。
辛いことは忘れたいし無かったことにしたいと思うのは当たり前の人情。でも或る出来事だけ都合よく忘れることは難しい。じゃあまとめて消せばいい、と研究した人達が実在するのです。でも私にはその先が恐ろしい。一定の記憶を失くしたことに気づかずにいる間はいい。でも大切な思い出も一緒に失ってしまったと知る時はきっと来るはず (え、覚えてないの?と人に指摘されるなどして)。一部記憶が欠落していると知ってなお、自己同一性(自分は連続・一貫していて同じ一人の自分だ、という感覚)を保てる?昨日の自分と今日の自分は同じ、と確信できないのでは?そんな心もとない感覚で生きる人生で幸福を感じられるの…?
苦しまぬよう忘れさせようとした人たちの気持ちは愛の一種には違いなくとも「しろう君はお前のことなんて夜見た夢のように忘れてる」とまで言う必要はあった…?
記憶を取り戻す決心をした彼を応援したいです。
草間先生がこの物語を、何もかもつまびらかにする創造主(神) の視点では描かなかったことが、話が分かりづらいというレビューにつながっていると思いますが、むしろそこがリアルでいいと感じます。「自分は何もかもお見通し」と自信満々な人達こそ「何も分かってないな」と思うこと、ありませんか?出来事の経緯も人の心情も「よく分からないなぁ」と謙虚に思うくらいで丁度いいと先生が仰っている気がしました。
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