きっと今日も、どこかの空の下でふたりは…





小屋への道すがら、オンブラが示した無自覚な気遣いに気づくシリウスに、あぁこの人は、ただ蝶よ花よと一方的にかしずかれ与えられてばかりだっただけの王子ではなさそうだ、と分かります(後に、凄絶な過去の一端が明らかに…)。他者に優しくできない人が、他者から示されたものが優しさだと気づけるはずがない。ささやかな人の気遣いに気づき感謝できるのは、自分も同じように人に気を配り心を砕いたことがあるからに他ならない。シリウスの生来の気質、気だては、ある方のレビューにある「無垢で曇りがない分、芯が強い」という表現がピッタリです。
他方、オンブラは王子に対し憎しみを滾らせているようでいて、とある因縁ゆえに憎まなければならないんだと必死に自分に言い聞かせ奮い立たせていることが見てとれ、その心を思うと辛い。
愛と憎しみは、あたかも白と黒のように「反対・真逆」のものとの認識が普通だ。が、本当にそうなのか。白に1滴ずつ黒を混ぜていって黒に到達した時(同じく黒に1滴ずつ白を加えていって白に到達した時)、間には無数のグレーが存在することになる。同様に、仮に一点の曇りもない愛と憎しみがそれぞれ存在するとしても、間に無数に存在するグレーの感情がその2つを繋いでいるとすれば、「憎みたい/憎んでいる」と「愛したい/愛している」は1つのループ(輪)の上にある感情であって、相反するものとは言い切れない(むしろ、愛と憎しみの本質的な反対概念は無関心だ、と言われてもいます)。それゆえ、オンブラの心理は「憎しみが愛にいきなり逆転した」のではなく、感情が1滴ずつ溶け込んでいくことで「憎しみから愛へと移行していった」のだと表現できるでしょう。
異なる2つの言葉で分けられたために引き裂かれた感情と、子供が背負うにはあまりに重い枷をよくぞ耐えてきたねと言ってあげたい。きっと今日も、どこかの空の下で、シリウスの可愛い誘いに抵抗できずにいることでしょう。
1ミリの誤解の余地もないほど細部まで丁寧に説明された作風で、読み手はハッピーエンドを信じて読むことができます。素敵なおとぎ話でした。

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