ボーイミーツマリア
」のレビュー

ボーイミーツマリア

PEYO

このまぶしい作品がずっと残りますように

ネタバレ
2021年7月28日
このレビューはネタバレを含みます▼ フォローしている方々のレビューを拝見して、昨年の夏の終わりに読んで以来、久し振りに読み返しました。
表紙を開いて目に入る、作者さんの「ボーイミーツガールともボーイミーツボーイとも言えない話になりました」という言葉がしっくりきます。私は、「大河ミーツ有馬(マリア)」で、「大河ミーツ大河」、「有馬(マリア)ミーツ有馬(マリア)」のお話のように思いました。
自分が高校生の頃に読んでいたら、どんな風に感じたのかなと想像します。いつ読んでも、何かしら心に響くものがあると思います。特に、ジェンダー、セクシュアリティ、あるいはアイデンティティに戸惑い、悩み、苦しくなったりしたときに、そばにあってくれたらいいなと思う本です。
ヒーローに憧れながらヒーローには程遠い大河と、男であることを否定された過去を持つ有馬のお話。
時にコミカルにテンポよく進むストーリーが、突如シリアスでヘビーな方向へ振られる幅は大きいけれど、一人の人間が持つ多面的な部分(内面)、あるいは社会の明暗(ヒーローとヴィラン)の表出のようで、この世界をとてもリアルに感じることができます。また、「有馬がどこにいるのかわからない」としゃがみ込んで気持ちを吐露する先輩など、脇に至る登場人物一人一人の心理描写、言葉、表情に、作者さんのどんな人にも気持ちを寄せようとする優しさのようなものを感じました。そしてアンテナ力と洞察力の高さもすごいな…と思いました。
人と出会い、向き合い、相手と自分を知る。誰でも、どんな自分でも、スポットライトを浴びていいと踏み出す一歩の力強さに勇気付けられます。人と違っても、大多数と違っても、様々なことが様々に枝分かれする中で、それぞれ一人の人間として生きること、自分の、あるいは自分たちの道を生きていこうとする姿は、それだけでまぶしいです。作者さんが息づくこの作品がまぶしいです。
目をそむけたくなる子どもへの性的暴行シーンがあり、なかなか読み返せなかった理由の一つでもあります。でも、その描写がない方がよかったとは思えないし、その辛さも含めて、広く読まれて欲しいなと思います。読まれることで、作品がずっとずっと残るといいなと思います。この作品に出会えて、本当に良かったです。作者さんに心から感謝です。描き下ろしが可愛くて、とても好きなんですよ。
いいねしたユーザ33人
レビューをシェアしよう!