シュトヘル
」のレビュー

シュトヘル

伊藤悠

滅び行く国の『文字』を巡り

2021年8月8日
圧巻。昔、読んでて完結してから読んでなかったんですが、只今1~3巻無料につき久々に読みました。やっぱりめちゃくちゃ面白い。人類史上最大規模の世界帝国モンゴル帝国の基盤を築いた偉大なるチンギス・ハーン。彼が執拗にその全てを消し去ろうとする西夏国の「文字」。文字こそが人々を救うと信じる少年ユルール。モンゴルに故郷を滅ぼされモンゴル人の命を奪うことを最上の喜びとする亡霊シュトヘル。復讐が復讐を呼び、奪い奪われることは終わらない。そんな最中、文字が紡ぐ千年先の世を叶えようとするユルール。彼と出会い、生きることを考えるようになったシュトヘル。伝えたかった言葉がある。それを遠く離れた愛する人へ伝えて欲しい。それだけのことだ。死んでいった仲間を覚えていたい。名前は知っている。音も知っている。ただ、時が流れ顔が思い出せなくなってくる。それを救ってくれたのが文字だった。例え、人が死んでも、その人が生きていたことを記した文字は生き続ける。自分の考えを記した文字は、自分を離れ、生きていく。そのことに安堵する登場人物たちに、その時代を生きていた人々のことを思い心が震える。歴史は勝者が紡ぐもの。勝者にとって都合の良いことが伝わっていく。それでも、この世界から実際に特定の文字全てを消し去ることは出来なかっただろう。後に、それは悠久の時がかかろうとも文字が"真実"を伝えてくれる。過去の言葉を学ぶことに意味はあるのだ。自分は日本の教育が古典を省略しないでくれたことに感謝します。千年前の記述を今なお当然のように知識として得れることが誇らしい。登場するキャラクターが皆魅力的。敵も味方も。『皇国の守護者』の作画をされてた先生。圧倒的な画力。戦闘描写に惚れ惚れ。本当シュトヘルかっこいい。ユルールとシュトヘルの、例え側にいなくとも、生きてさえくれていればそれで良いという圧倒的な愛に、何も言えなくなる。激動の時代。生きてさえいてくれたらそれだけで十分。そんな愛に何も言えません。主人公から見ればモンゴルは敵側ではあるんですが、モンゴル帝国が一時代を築く話とか、好きな方はお好きと思うので、もっと有名になってもいいくらいの傑作と思います。ただ、若干設定には疑問があって首を傾げる部分もあるんですが、そんなことは些末なこと!とさせてください…笑。巻末のオマケ漫画が面白い笑。本編ヘビーでシリアスでもオマケで救われます笑。
いいねしたユーザ12人
レビューをシェアしよう!