ラムスプリンガの情景
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ラムスプリンガの情景

吾妻香夜

まるで映画のような

ネタバレ
2021年8月22日
このレビューはネタバレを含みます▼ 初読み作家様です。気にはなりつつ、迷った結果読んで良かったと思います。
キリスト教系の宗教集団アーミッシュに属する青年・テオと、夢破れて男娼として生活をつなぐ男・オズの物語です。ん…私的に合うのかな?と一抹の不安がありましたが、違和感なく読めました。
ラムスプリンガ=アーミッシュに属するものが、そのコミュニティに残るか、家族も友人も何もかも捨て、俗世を選ぶか岐路に立つ期間。その期間は、自由を謳歌する期間です。

敬虔なキリスト教系のアーミッシュであるテオは、薄汚れた俗世を知らず、ただただ純粋無垢で素直で可愛いんです。怒り方も知らない心優しき青年。外の世界を初めて知ったテオにとっては、何もかも新鮮に映ったかもしれませんね。恋もその一つ…クロエが言った『素晴らしい呪い』という言葉がまさにその通りだと思いました。恋は人を変えてしまうのです。
オズはダンサーの夢を捨てきれず、くすぶったまま父親への罪悪感に苛まれているようですが、夢は一体誰のものなのか。姑息な手段を使ってまで手に入れようとした夢の舞台。夢は自分が輝くためのものであって、父親のためではないはず。誰のために、何のために踊るのか。踊る事の喜びとか楽しみを忘れて、舞台に立つ事だけに囚われて苦しんでいるのが、とても辛いです。テオに出会って、テオの純粋な心に触れて、見えなくなっていたものが見えた気がします。
もう互いに大切な存在になってる二人に迫るラムスプリンガの最期。ダニーの胸を引き裂かれるような悲しみも辛いし、人前で髪を下ろした意味深なクロエもなんだか寂しい。人は誰しも自由を追い求めたい。ラムスプリンガの決断があまりにも哀しいものですね…敬虔であることに頑なになり過ぎているように思えてしまいます。ほんとに深いお話です。

物語の前半のテオは、ホワホワとしてピュアな可愛いさでしたが、恋を知り、外の世界を知った彼は強くたくましくなったと思います。自分の生きる道を選択する岐路に立たされたら、強くならざるを得ない。『素晴らしい呪い』は彼を変えてしまったんですねぇ。
オズももう一度夢を叶えるために、頑張って欲しい。二人でいれば道は険しくとも、突き進める気がします。
あぁ、良かった!前半ちょっとだれそうでしたが、後半の盛り上がりで挽回しました。うん、良かった!
スピンオフ『親愛なるジーンへ』も楽しみです。
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