目を閉じても光は見えるよ
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目を閉じても光は見えるよ

丸木戸マキ

目を閉じても見える光は柔らかくて温かい

ネタバレ
2021年8月29日
このレビューはネタバレを含みます▼ 読み終わって本を閉じ、表紙の文字が、にじむようにぼかされていることに目が向きます。タイトルの意味と、眩しいけれど柔らかい光のような、どことなく心もとないような字体が琴線に触れます。
始まりは”肉体 関係”。AV男優・仁とゲイビ男優・光は、PDマリ子さんが立ち上げた女性向けゲイビレーベルでバディを組み、共演を重ねます。住んでいるマンションが同じということが発覚し、プライベートでも距離を縮める2人。けれど、プライベートでは体の関係にならないのがいい。少しずつ明らかになるお互いの過去。マリ子さんに「男としてはゴミカス」と言われる仁さん。仁さん自身も言ってるけど、過去に特別なことがなくたって、こういう人はいると思う。
逆に、今の穏やかさからは想像もできない光の壮絶な過去。どことなく悲壮感のない光の姿は、感覚や感情を麻痺させているようにも思えて、かえって辛い。そんな中で、かんちゃんの顔が思い出せないと泣く光の姿が苦しくて仕方なかったです。
最終話、誰のことも大切に思えなかった仁さんが伝えた、「(大切に想う人の中で)1番になりたかった」という言葉、誰よりも愛してくれた人と引き裂かれた過去がある光が、感情のあふれるままに求めた「俺だけを見て…」という想い…2人だけの世界に泣けました。
2人の笑顔に安堵するラストからの光の前日譚『水曜日の朝~』の衝撃。これを最終話の後に持ってくるのが、丸木戸先生だな…と。上書きされた壮絶さとやるせなさを持って読み返すことになるのです。
作中に、「塵や埃に光をあてるのが自分の仕事」って言うマリ子さんがいるんですけれど、何だか、作者さん自身のことのようにも感じました。きれいごとのない世界に目を向けて光をあてているなぁと、そんな風に思いました。
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