ラブラド・レッセンス
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ラブラド・レッセンス

ymz

自分の視線は、相手を正しく捉えている…?

ネタバレ
2021年8月29日
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新しく人と知り合い関係を築いていくそのいき方は、いつどこでどんな状況で出会ったのかとか、互いの立場がどんなものかとか、自分と相手がどんな性格でどんな物の考え方をするかとか、これまでどんな風に人間関係を築いてきたかとか、今ちょっと考えただけでも少なくともこのくらいの条件で何十、いや何百、何千通り(あるいはそれ以上)の道筋を辿りうるでしょう。
いつ、かしこまった口調が砕け、顔の表情や身振り手振りがより親しげなものに変わり、互いの物理的距離が近づくのかは、気の遠くなる可能性の中から互いに選択を繰返しながら徐々に1つに定まっていくのでしょうか。
このお話の春次(しゅんじ)と睦(むつみ)は、救急搬送されてきた患者とその主治医。その初対面の日。いきなりタメ口をきき密着してベンチに座り互いの手や口から煙草を取り合い、気落ちした風の相手の頭をわしゃわしゃとかき回したりと、二人は独特の道筋で近づいていく。
このルートが自分の慣れ親しんだ道筋やテンポとかけ離れている読者ほど2人を苦手に感じそう。
とはいえ決して軽薄ではない。途中停止や戻るボタンがない人生は前へ前へと進み続ける時間の連続で、“一回性”のもの。それを思い出し春次が意地を捨てたことで2人も前に進めた瞬間があったと思います。
タイトルのラブラドレッセンス(一語の単語)は、それ自体の成分構造と光の干渉によりラブラドライトという鉱石が放つ青みを帯びた閃光のことで虹色とか玉虫色と喩えられ、見る角度や場所・時間で何色にも変化して人の目に映るとか。例えば同じ人を前にし同じ優しさに触れたとしてさえ、受けとる人間次第で違った閃光に見えるということを示すために巧みに選ばれたタイトル。
誰にでも一様に向ける優しさを浮気性とか不誠実な行動と同一で嫌なものと受け取ったことがあるのはこの元カノだけでしょうか…?と作者が問うているように感じた。優しさ属性の人をただの多情な人間と見誤ってはいませんか… ?と。
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