シティ・ライツ・バースデイ【電子限定描き下ろし付き】
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シティ・ライツ・バースデイ【電子限定描き下ろし付き】

本郷地下

ひっくり返るオメガバ論

ネタバレ
2021年8月29日
このレビューはネタバレを含みます▼ 運命の番論を講じる作品は数多あるが、本作は運命について読者も一緒に澱みなく考える事ができ、共に作中に存在できる秀逸な作品だと思う。単話のサブタイトルが(紙本または作者様のツイートで確認できる)1話から順に、予感、甘美、焦燥、歓喜、悔恨、陶酔、情熱と、起承転結を地で行くようなスッキリ仕立て。穏やかな作風と相まって、番って何?と考察する余白を頭の中に置いておける。その穏やかさの中に湧き起こる強い感情が愛しくて切なくて泣かずにはいられない。従来のオメガバースでは強くあるべきα、主役になれないβ、搾取され幸せは他者に与えられる存在のΩ。それがひっくり返る世界を躊躇う事なく受け入れられる。この一冊を読み終えた時、読者は幸福感と一緒に新たなオメガバースの可能性をも認識することだろう。。。余談であるが、5話のサブタイトルの「悔恨」を花言葉に持つヘンルーダは、古来薬草として使われ、ローマ時代の画家は視力を高めるために食していたという。これを知った時にまた少し泣いた。
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