抱擁実験
」のレビュー

抱擁実験

小笠原宇紀

今はウーパールーパーを見るたび胸が一杯に

2021年9月21日
冒頭3ページでサラリと示される大学生の主人公・未弥(みや)の辛い事情 (決してトラウマの類ではないのでその点はご安心を)。その彼が大学図書館で見かけて気になっている男・令(れい)と言葉を交わし、そこから少しずつ明かされる2人の素性。そして事態は命と愛を軸に思いもしない展開へ…。

たぶん…電化製品のマニュアルを自力で読むより誰かに丸投げ!の人や誰かにふぅふぅしてもらわないと熱いスープが飲めない人(も~甘えん坊さん達め) には、話の展開や2人の心情が少し掴みにくいかも。手取り足取りの説明は一切ありません(だからこそリアルでもある)。特になぜ2人がこのタイミングで体を重ねたのかは、そこで立ち止まっていてもたぶん永遠に分からないので、「何で?!」ではなく「何かあるんだろうなぁ」と疑問と感想は保留にし、共に先へ参りましょうぞ。

未弥がスマホで打った6文字とそれに続くシーンには画面が滲み唇が震え「作者様、お願いだから…!」と何度も祈りました。
全て読み終えてから始めに戻る。初めてウパを目にした未弥の表情を見つめる令の心の内には、どんな思いがあっただろう。

『BLACK SUN』を読んで以来、心酔している作者様。他にはない物語世界の着想と構成。人物の描写と構図。シリアスとユーモア。何もかもに惹かれる。私の中では西田東/ヒガシ先生と同じ地平線上にいらっしゃる方。シーモアさんでの決して多くはないラインナップを惜しみ、ちみちみと読み進め、どれも何度も読み返す。あぁ、この先生の作品について誰かと話せたら… 愛してます先生!
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