ブライトブルーに沈む【ペーパー付】【電子限定ペーパー付】
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ブライトブルーに沈む【ペーパー付】【電子限定ペーパー付】

ぱるあ

気持ちを伝え合うことばかりが、善だろうか

2021年9月28日
先日、ある人気BL漫画家と小説家が、イメージやニュアンスで誤用されている言葉を本来の正しい意味や用法で自分が使うと読者が勘違いするからややこしい… とSNS上で話していて、思わず唸った。
英語⇔日本語の通訳・翻訳が仕事の1つなので、知っているつもりの言葉でも発音・意味・用法の3つを電子と紙の辞書で確認することが習い性となったが、正しく使ってもクライアントが「?」という顔をすることがある。先日もhighlightという語を文脈から「触り」と訳したところ、英語が堪能なクライアント側関係者から「ハイライトは“山場”のことだから“導入部”という『触り』は変」とのご指摘… 『触り』の意味が “見せ場”であるとはご存知ないようだった。

実は、主役の1人が小説家であるこの作品も当初言葉の用法が気になり2度挫折。「ベッドメイキングは済んであります」(→済んでいます、が正しい) 「感じれない/見れない」(→感じられない/見られない) 「歌声に息を飲むほど揺さぶられた」(→歌声に息を呑み、心が揺さぶられた/息を呑むほど美しい歌声に心を揺さぶられた)。もう殆ど自戒ネタです…。
が、先日3度目にして遂に読み通し、その引っ掛かりを差し引いても余りある素敵な1コマに出会った。

思いを寄せ合う2人の人間が、故あって2度と会うまいと心に決める時、ここを先途と思いの丈をぶつけるものだろうと想像しがちだ。最後は本心を語り合い、すっきりした気持ちで各々の道へ歩み出そうとするだろうと。
だが人の心はそんなに合理的に働くだろうか…?
相手と自分に誠実であろうとすればするほど、人は自分が口にする言葉に縛られ、同時に相手をもその言葉に固定してしまう。「好きだ」とか「愛している」という言葉は、仮に過去形で言われてもその場かぎりの心情の吐露として雲散霧消などしない。むしろ、なお果たされるべき約束、守られるべき誓いとして胸に刻まれ、或いは希望を孕む鎖となって人をその言葉に繋ぎ止める。2人が共に居続けることを取り巻く状況が許さないなら、愛を打ち明け合うことは、未来のないその残酷な事実で自分たちの心を抉る行為にしかならない。
言葉を呑み込み、ただ相手と自分のありったけを、その一瞬で与えあう------互いに気持ちを言わない不作為こそが互いへの最大の誠意と愛の証である瞬間。
これを見るためだけでも一読の価値があった、と思う。
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