ずっと一緒にいられたらいいのに…
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ずっと一緒にいられたらいいのに…

つくも号

ショタに対するイメージを壊された作品

ネタバレ
2021年9月30日
このレビューはネタバレを含みます▼ ショタに対しては今も抵抗はあります。しかしこの作品を読んだショックで、それまでの思い込みや体裁は吹っ飛んでしまいました。
元々は『最果てのアムリタ』というタイトルの単行本。読み放題では倉田目線の描き下ろしが欠けています。
描き下ろしを読んでこその作品と思い、以下ネタバレでレビューします。

まず描き下ろしで語られるのは、母から溺愛され倉田も母を愛し母の期待に応えようと生きてきたこと。異性しか愛せないと気付いた時の絶望。誤魔化して生きる事に慣れていた…そんな時に出会った合。決して触れてはならない、口にしてはならない神酒(アムリタ)の様に感じていたけれど…。そんな折に母が倒れ、最後の願いとして家庭を持って欲しいと告げる。

まばゆい光の中ではつらつと輝く少年。自分には得られないものだと押し殺したあの頃の想いが、手を伸ばせば届く。
確かに倉田の行動は合にとって酷なものだったと思います。
でも倉田は描き下ろしの最後に、自分への罪と共に「それでも僕は確かにこの島で君と恋をした」と述べています。
合にとっても、あの時間は本当の恋だったと思うのです。
人生を選択できない少年という立場、島という閉鎖的な環境。倉田を追うことも出来ない非力な合。セリフの無い静寂の中に響き渡る合の叫びに心が震えました。でも、終わってしまったからしなければ良かった恋ではない。
残酷な終わりを迎えたけれど、不憫がられる恋じゃない。最後の合の顔を見れば分かります。
いつまでも忘れられない誰かを心の隅にしまって生きていたって良いと思う。あの人がこの世界のどこかに生きているのなら、一目でも交わせられる日が来るかもしれない。
その一瞬の為に生きていても良いと思う。
そんな希望が強く生きる糧となり、時には自分を支えてくれると思う。

アムリタ、仏教用語で甘露。
仏教では、さとりを指す涅槃をアムリタとも言う。

甘露、本来の意味は苦が消滅した、平穏な心の状態を表すそう。水平線を眺めながら穏やかな表情で倉田に想いを馳せる合からは、恋の苦味すら愛しく抱きかかえ真っ直ぐ前を向いて生きる強さを感じます。
『最果てのアムリタ』タイトルが切なく胸に響く。
しなくて良かった恋なんてない、私はそう思います。
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