ここにしかいない二人【SS付き電子限定版】
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ここにしかいない二人【SS付き電子限定版】

加東セツコ

おとなの塗り絵

2021年10月21日
加東先生、SF寄りの2作品。
かなり好きでした。
先生らしさはそのままに、更にエッジが効いている感じ。

作品の感想で話の結末が見えないとか、起承転結がないと評される事が多い気がします。
それと、背景の描き込みが少ないとの声もあります。

表紙の主人公はまるでアンドロイドの様。
一見無表情に見えますが、そうではありません。
読みながら自分なりに感じた色を付けてみたら、
次第に温度も匂いもしてくる。

そう、これはおとなの塗り絵。

簡素に思えるストーリー展開。
しかし例えば同僚と肩がぶつかるシーン。
あの後の主人公の1コマで、
彼の人物像や背景が一気に伝わる。
そういった1コマ、いや1つの視線すらこぼさず読んで欲しい。

彼と彼が創り上げた、どこでもないどこかの空間。
そこでは辻褄合わせも不要。
必要なのは恋する2人。

ストーリーはページが有限であるから、
ある程度の着地点を設けられているけれど
それは物語の通過点でもある。
この2人の行く末がどう転じるか。
この切なさに浸っても良いし、
予想だにしない幸せを思い描いてみても良い。

ちょっと人とのやり取りに、嫌気がさす程では無くとも
何となく疲れた時に加東先生が無性に読みたくなる。
とてもリラックスできるんです。

決められた結末が無いということは、
先を無限に考える余白が残されているということ。
今日の自分は正しかったかな、あの発言で良かったかな…
そこに答えを出すよりは、心を柔らかくしておきたい。
私に必要な余白です。
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