あの日ぼくが見上げたのは…
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あの日ぼくが見上げたのは…

東城和実

また、きっと会えるね…

2021年10月25日
(63頁/200pt)
カブトムシは夏の終わりに卵で産み落とされ、2回脱皮した幼虫は土の中で冬を越し、翌年の春にサナギ化して2週間後に羽化し成虫になる。夏の初めに地上に出てきて樹液で栄養を摂り、交尾をし、産卵して夏の終わりに息絶える。
短い生の間、全力ですることばかりだ。

10歳の夏。母親と2人家族の4年生の有季(ゆうき)は、母親に「一人になりたい」と言われ田舎の祖母の家に預けられる。

有季の寂しさを思いやる祖母。同い年の泰宏(やっちゃん)がくれたカブトムシの幼虫。
誰にどう気遣われても、応える余裕などありはしない。いつまでと期限を言わない「一人になりたい」は心を喰らう悪魔の呪文。要するに「お前なんか要らないよ、邪魔」ってことだから。
呪文を聞いた心の表面は擦りきれてヒリヒリするから、傷つかないようトゲトゲさせておくしかない。丸ごと包(くる)もうとする人の優しさも、トゲトゲに引っ掛けてズタズタにしてしまう。そしてそのことに自分でも気づいて更に傷つく。
自分がどんどんイヤな子になっていくと感じる辛さ。1人で背負う姿に胸が潰れそうになる。

心も体も簡単に大人になれたらどんなに楽だろう。だが現実は、親が居ようが居まいが、毎分毎秒、自分ひとりで戦いながら成長していくしかない。
全ての子ども達の羽化が健やかであれかし。
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