原点回帰--男でもあり女でもあること





幼稚園に通い始めてすぐ、私は同い年の女の子達と「なにか違う」と互いに感じあっていることに気づいた。ままごとや人形遊び、男の子の噂話に全く乗ってこない私は彼女達にとって変人でしかないようで、たちまち女の子の遊びの輪に誘われなくなったが私は私でホッとしていた。ただ、感じた “違い” は一体何だろうと思っていた。
その正体の片鱗に触れたのは小学校に上がったとき。NHKの連続人形劇「新八犬伝」が始まり、2年間、毎日夢中で物語を追い、自分の中で反芻し再現した。
こうも惹かれた理由に、辻村ジュサブロー氏の作る人形たちの表現力の豊かさ、曲亭馬琴による原作や人形劇自体の面白さがあるのは言うまでもない。だが最大の理由は2人の登場人物--犬塚信乃と犬坂毛野--への限りない愛着、自分の中の “違和感”の根源に響く何かを彼らの存在に感じ取り共鳴していた故だと思う。
いまその “何か” を端的に表現するなら、2つの性/生を同時に生きる者の存在とその悲しみ、と言うだろう。
原作『南総里見八犬伝』で信乃と毛野は生き延びるためにそれぞれ女児として育てられる。
男でもあり女でもある2人。その“両義的” 存在は私の中にもある矛盾や違和感、“どちらか一方だけでは引き裂かれる自我” を慰めてくれる気がした。こうした感覚は多くの人が大なり小なり持っているものだと今なら知っているし、適切な表現を以前は誰も持っていなかっただけとも思う。それでも、 “違い”が生む “疎外” は自分自身や他者との折り合いを難しくし続けた。
本作品における信乃は原作とは逆に“男として育てられた女性” として描かれ、生きるため男と交わり精気を取り込まねばならない呪いと葛藤に苦悶する。一方の毛野も身内に棲む魔と戦い、男でありながらその美貌と体で男達を陥落し本懐を遂げようとする。
この2人の両義性が孕む悲劇性が、かつて人形劇に私が感じたままの美しさと哀しさをもって表現されていることに感動する。
何を読んでもどこかで “これじゃない…これが読みたかったわけじゃない”と長らく感じていた。本当に読みたい本に出会うため原点に還ろうと思い立ち、さて私の原点はと考えた時に人形劇を思い出し、ひと月前にこの作品を見つけて読んだ。あぁこれだ、ずっとこの物語に帰ってきたかった…!

-
ジユンチ さん
(女性/50代) 総レビュー数:830件
-
キスクラ さん
(女性/50代) 総レビュー数:53件
-
アヲアラシ さん
(女性/-) 総レビュー数:100件
-
lviv さん
(-/-) 総レビュー数:3106件
-
romio さん
(女性/50代) 総レビュー数:714件
-
…… さん
(-/-) 総レビュー数:12件
-
名無し さん
(-/-) 総レビュー数:1267件
-
s2 さん
(女性/20代) 総レビュー数:2件
-
MW さん
(女性/-) 総レビュー数:3164件
-
黒鯉 さん
(-/-) 総レビュー数:720件
-
salmon さん
(女性/50代) 総レビュー数:2121件
-
kou さん
(女性/60代~) 総レビュー数:486件
-
shikimi さん
(女性/50代) 総レビュー数:429件
-
まる さん
(女性/-) 総レビュー数:647件
-
aa さん
(女性/40代) 総レビュー数:1129件
-
梅干し さん
(-/-) 総レビュー数:990件
-
:::::::: さん
(-/-) 総レビュー数:656件