地下鉄の犬
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地下鉄の犬

草間さかえ

地下鉄の犬は馴染んだドアの明かりを目指す

ネタバレ
2021年12月1日
このレビューはネタバレを含みます▼ 地下鉄のホームで見かけた薄汚れた迷い犬、その違和感と当て所なさを自分に重ねる篠田は、離婚して引越した先でタバコ屋兼骨董屋の朝倉と知り合います。自作の小説を収納する箱を探してもらいつつ、コーヒーを飲む二人の時間は心地良く、篠田は足繁く店に通うようになります。学生時代の恋人とも妻とも上手くいかなかった篠田は、気に入った器を金継ぎして使う朝倉に、自分は大切なものを大事にできないのだと自嘲します。別れた妻から「あなたは大切にはするけれど飾っておくだけ」と言われた篠田ですが、朝倉から好意を告げられて、心地良かった今までの関係から一歩進める決意をします。
朝倉も篠田も、手品の万国旗のように思いがけない部分がスルスルと出てきて楽しいです。最後にはカバンからシーツまで出てきます。お料理上手の篠田が、自分のお弁当には端っこばかり詰めて真ん中は朝倉のお昼にと置いていったり、篠田の帰りを待ちきれない朝倉が、自販機にタバコを補充する体で外で篠田を待っていたり、この大人たちはなかなか可愛いのです。そして、この恋人たちの「可愛い」は「好き」の意味なのでした。
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